第5話 悪しきもの去る

「授業中、よそ見をしない」


 と言っていた上月先生が、にわかに騒がしくなった窓の外を窺がうと教室を慌てて飛び出して行った。


「しばらく自習」


 言い添えるのも忘れなかった。


 門の外ではプラカードを持った女性たちがこちらを向いて何か言っている。

 先ほど出て行った上月先生、森山先生が肩を並べて立っている。神崎先生も加わって人の数が溢れていった。

 

「何て書いてあるの?」

「どうやらミツバチ、三橋のことみたい。やだ、うちの制服の女子までいる」

「あれ、ブリュじゃない、何かヤツにされたのかな?」

「存在自体がうっとおしいってやつ。抹殺しちゃえみたいな」

「じゃあ、あたしらも行ってもいいじゃん」


 三橋は裏口から回って女性集団を排除しようと躍起になっている。

 詰め寄られて、三橋は今度は逃げ出した。

逃げ足は早いようだ。


「ああ、つまんない。もう終わっちゃった」

「ルナは行かなかったんだ」

「うん、顔を見るのも嫌」

「これだけの騒ぎになったら三橋も追い出されて、もう顔を見なくてすむよ」





「あっ、パパ、もうシャワーを浴びたの?」

「ああ、今日の現場は腐乱死体の」

「やめて、食事前よ」

「ごめん、ごめん。つい慣れっこになってしまって」

「で、相当ひどかった?」


 コッホン。

 ヨッシーが咳払いをした。

 一平は上半身裸で頭を拭きながらシャワールームから出て来た。


「きみが田辺君か。ルナに勉強を教えてくれてありがとな」

「い、いえ、い、言うほどのことはしてません」

「パパ、その恰好じゃ」

「ああ、失敬、失敬」


 ヨッシーが田辺を肘で小突いた。


「そんなにどぎまぎしたらバレるぞ」

「何、どぎまぎって」

「タナベくんの憧れの人なんだって、ルナちゃんのパパ。だからあの日もルナちゃんのお風呂を覗いたわけじゃなく」

「おい、言うなよ」

「でも、ぼくとしてははっきりさせときたいから」


 ルナは拳で掌を打つと、


「ああ、それでタナベ君、パパのこと詳しかったんだ。もしかしてストーカー?」

「やめてくれよ、捕まっちゃうよ。これでも警察官目指してるんだから」

「すごい、進路が決まっているんだ。ヨッシーは何になりたいの?」

「体育の教師。一番の目標は親父みたいにオリンピック選手になりたい」

「ルナちゃんは?」

「まだわかんない」


 リビングの端のエレベーターが開いた。


「おーい、焼肉パーティー始まるぞ~」

「はーい」


 ルナたちの背後から返事が聞こえた。


「カエデちゃん、お兄ちゃんたちと一緒になったの?」

「毎日のように道場に押しかけて来るんだよ。ブリュは大歓迎だけどさ」

「ひど~い、ブリュ、連れて来なきゃよかった」


  ハハハッ


「本物の金髪女子はモテモテだね」

「これ、本物でありませんね」


 ブリュヴェールが長い金色の髪を指先でもてあそびながら言った。

 

 ……。んっ?




         【了】




🏠上月 くるをさん、お名前をお借りしました。ありがとうございました。

作品 『星の曾孫たち 🌼🌿🐕🍈🦗🧹🕊️』

 

https://kakuyomu.jp/works/16817330659834930958


🏠森山郷さん、お名前をお借りしました。ありがとうございました。

作品 『スノードーム』


https://kakuyomu.jp/works/16817139555478914377


🏠神崎小太郎さん、お名前をお借りしました。ありがとうございました。

作品 『雪の結晶が織りなす、「京都花街の恋物語」』


https://kakuyomu.jp/works/16817330664616350275




🏠最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

次回はルナたちの恋の話などと思っております。💕


https://kakuyomu.jp/my/works/16817330668424362031


に続きます








 



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15🏠ルナ弾む オカン🐷 @magarikado

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