第4話 ヨッシーのパパ
ヨッシーの亡くなったパパのお母さん、ヨッシーのお祖母ちゃんが隣県の施設に入所している。足腰が弱くなって車椅子で生活しているが、頭はしっかりとしているという。
日曜日を利用してお祖母ちゃんを訪ねた。
ミオさんが話してないことをと最初は渋っていたが、父親のことを何も知らずにいる孫が不憫に思われ、ぽつぽつと語り始めた。
ヨッシーの父親、亥久雄は水泳の選手で、派手に活躍はしなかったけれどオリンピックに出場したこともあった。
川遊びをする男の子たちが溺れているのを見て助けに飛び込んだ。岸辺に2人を上げた直後、鉄砲水で濁流に飲み込まれた。
亥久雄は海にまで流されて還らぬ人となった。
ヨッシーが1歳のときのことだった。
「そう、スイミングスクールに行ってるの。ミオママ許してくれたんだね。良かったね」
「うん、泳ぐと言ったら、おやじのこと思い出すみたいで辛かったみたい。祖母ちゃんがね、カエルの子はカエルだねえって言うんだ。カエルの子はオタマジャクシじゃねえの」
「たぶん親子は似るみたいな言葉じゃない。スイミング、強化選手コースなんでしょ。いきなりで大丈夫?」
「テストに合格したんだ。ところで女学校はどう?」
「それがね……」
ルナの部屋の外のコンクリート階段が二人のおしゃべり広場。いつまでも賑やかに話声が絶えなかった。
「あっ、そう言えばルナ、お兄ちゃん紹介してっていうのどうなった?」
「えっ、お兄ちゃん、面倒くさいな」
「まあ、そう言わずに、ここは人肌脱いでくださいな」
「じゃあ、道場行ってみる。まだ大学から帰ってないかもしれないけど、おじいちゃんがお茶を煎れてくれるから」
「おじいちゃんて師匠のことでしょ」
ブリュヴェールが道場の門に着いた途端、歓声を上げた。
「わあお、江戸時代にタイムスリップしたみたいでえす」
あとは興奮しすぎて、英語だかフランス語だか何を言ってるのかわからなかった。
奥から道着姿の遼平が出て来た。
「賑やかだと思ったらルナか」
「クラスメートが見学させてほしいんだって」
「へえ、ルナの友だちまでが酔狂だな」
ブリュヴェールが遼平に手を差し出した。
すると一段高くなった玄関先に上がるのに手を貸し、次から次へと嫌な顔一つせずに手を差し伸べた。
「何だ、お前か」
遼平はお姫様のように差し出すルナの手を叩きつけるように払い除けた。
お兄ちゃんもジェントルなところがあると思ったけど、その思いを速攻で撤回した。
損した。思いを返して。
「何でルナだけ?」
「当たり前じゃ。今日は味方してくれるじいちゃんもおらんぞ」
「どうしたの?」
「浬先生とまた病院へ行った」
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