異世界トラック!~運転手募集~

下毛くりりす

バイト

大学3年の夏休み、俺は就職の為に大型トラックの免許を取った。

ただ、学生には安くない出費だったので、単発バイトで手っ取り早く稼ぐことにした。


「夜勤で…大型トラック運転…日当6万!?」


詳しく内容を見ると、深夜0時~3時にトラックで決められたルートを走るだけ。

注意事項に小さく記載された『何があっても止まらないこと』という一文が不穏だが、6万円はデカすぎる。

深夜に事件など起こるまいと、気楽に考えて応募した。


「野永 啓介のなが けいすけです、よろしくお願いします」


「野永くんね、加藤です。よろしくね~!」


当日。事前にルートは教えてもらっていたが、指示役として加藤さんが登場するらしい。

25~30歳くらいだろうか、茶髪のボブヘアがかわいらしい印象だ。

パンツスーツ姿だが、結構スタイルも良い。踏まれたい脚線美をしている。

こんな女性を助手席に乗せてドライブできるなんて、いろんな意味で美味しい仕事だぜ!


「へぇ、免許取り立てなんだ!就職で?偉いじゃん!」


「いやぁ、そっすかね!あざっす!」


我ながら、だらしない表情をしていたとは思うが、かわいいお姉さんに褒められて嬉しくないわけがない。

加藤さんとの会話が楽しくて、横断歩道を渡ろうとしている人影に気付くのが遅れてしまった。


結構な衝撃とともに、何かにぶつかったことを理解する。

さっきまでの楽しい雰囲気が霧散し、自分の血の気が引いていくのがわかった。


「はいはい~、まだ止まらないでね~」


加藤さんはこういったことの経験があるのか、冷静に指示を出してくれる。

それに従い、ノロノロと車体を操作する。


「大丈夫だから、そこのビルの陰に止めようか」


トラックを停めると、加藤さんは助手席から降りて車体を確認し始めた。

俺は運転席から降りることができずに、ただ茫然とすることしかできなかった。

確認を終えた加藤さんが戻ってきた。


「加藤さん、ほんと……俺、すみませんでした」


「あぁ、いいのいいの!とりあえず今回の仕事はここで終わりね!」


「はい……すみません」


「気にしないで!電車はもうないだろうし、はいタクシー代 これで足りるよね?」


万札を握りしめ、トボトボと乗り合い場まで歩く。

途中でふり返ると、トラックが青白い光につつまれて消えていくのが見えた。

停車していたところをしっかりと確認したけれど、初めからなかったかのように消えてしまった。


その日は、どうやって帰ったのかよく覚えていない。

一睡もできず、気が付いたら自室のベッドの上で朝を迎えていた。

翌日、俺の口座には6万円が振り込まれていた。


昨晩、俺は間違いなく誰かを轢いてしまった。

しかし、そのことはニュースにはならなかった。


人を轢いたことがあるなんて、言えるはずもない。

このことは墓場まで持っていくつもりだ。

そしてもう一つ、俺はもう二度とトラックは運転しない。


そう心に誓った。





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