第18話 記憶はどこにある?
ゆめは昼食を終えてまだ時間があるので、食堂でゆっくりとしていた。色々な食べ物の匂い、足音、談笑が聞こえる。自分はone of themなんだと強く意識されて、身体が透き通ったような気がした。
この前撮ったプリを見よう。無印で買ったファイルをプリ帳にしている。半透明の表紙を開くと、3人で撮ったプリクラが収められている。
もともとプリは撮らないタイプだったが優乃に誘われて撮ってみたら悪くないと思った。カメラアプリより盛れる。
「え。めっちゃ可愛い〜!」
後ろから声をかけられた。振り返ると
「お恥ずかしいですわ」
そう言いつつまんざらでもない。
「そう? めっちゃ可愛いから可愛いって言っただけだよ? それに今時プリ帳作ってるのもプリへの愛情を感じる」
「基本的にはスマホにもダウンロードしてますが、このように物理的に存在していると安心します」
「ゆめちゃんは可愛いよね」
「そうでしょうか? 私は極めて平凡ですよ?」
「そういうことじゃないんだけど……」悠は少し言いよどんで言葉を繋いだ。「ここに映ってる2人が哲学部の人たち?」
「そうです、真ん中にいるのが優乃さんで、端にいるのが雪希さんですわ」
「タイプ全然違うね〜金髪の子はギャルっぽいし、黒髪の子はなんかオーラ出てる。ちょっと怖そう」
「そう言われればそうですね。私たちに共通点って少ないかもです」
「でも仲良くできるのは奇跡だね」
「奇跡ですか……そうかもしれませんわ……」
◆
放課後。悠に褒められたせいか、てつがく部に行くのが楽しみだ。お茶とクッキーがあるのを確認して、てつがく部のドアを開けた。
「お疲れさまです!」とゆめ。
「おつかれ!」と2人。祈は来ていないようだ。まだ不登校なのだろうと思う。
2人とも本を読んでいる。そういえば読書という共通点はあったなと思う。バッグを床に置いてお茶セット(水筒に入れたお湯とクッキー)を取り出す。
「ゆめ、なんかバックから落ちそうだよ?」と声をかけられた。
「ああ、プリ帳ですね」なんともなしに答える。
「前撮ったやつ? 見たい見たい!」
「優乃さんも持ってるやつですよ?」
「いいからいいから」
プリ帳を優乃に渡すと、お菓子をもらった子どものような表情を浮かべて可愛らしい。
「ウチらめっちゃ可愛いじゃん!」
気が付くと雪希も優乃と一緒になって覗き込んでいる。
「優乃、お前変な笑い方するな。にへらっとしている」
「にへらってどんなだよ」
「このプリみたいな顔だ」
「ねぇゆめ、私の笑顔っておかしい?」
「そんなことはありませんよ。とってもチャーミングだと思います」
「雪希はなんでそんな意地悪するわけ?」
「意味はない」
ゆめは紅茶とマドレーヌを2人に差し出す。
「ありがと!」と優乃、「ありがとう」と雪希。
「私にも見せてください」
「いいよ。てかゆめのだもんな」
改めてプリを眺める。2人とも可愛い。やはり照明が違うのだろうか……。
「あの……このプリの人たちってどこにいるんでしょう?」
「急に変なこと言わないでよ。ここに映ってるのがウチらじゃん」
「うーん。ゆめが言いたいのは、このプリに映っている私たちがただの痕跡ではないと言いたいのか?」
「そうです、このプリに映っているのは一般的に考えれば私たちの痕跡なのですが、ほんとうに痕跡なのかなと……このプリを通して思い出されるのは私たちそのものだと思うんです」
「そうするとここに現れているのは過去の痕跡ではなく、現実そのものだと言いたいのか?」
「うまく言えないんですけど、このプリは窓のようなもので、そこを通して私たち自身に繋がっていると思うんです」
「どゆこと?」
「それが上手く言えなくて……雪希さんお願いします」
「ここには2つの立場があると思う。1つ目は過去の事実を記録した写しであるとする立場、もう1つは写しではなくプリを通して私たちに直接アクセスしているという立場」
「なんかそう言われると写しではない気がしてきたかも……てか、写しとして捉えるのはもったいないね」
「もったいない、ですか?」
「なんかさー現実の写しと考えるより、現実そのものにアクセスすると考える方が豊かじゃない?」
「そういう観点もあるな」
「そう言われるとウチらのプリもすごく貴重に思えてくる。みんな大好きだよ!!」
優乃は、雪希とゆめの身体を抱きしめる。
「3人で写真撮ろ!」
パシャリ。
てつがく部! 清原 紫 @kiyoharamurasaki
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