第17話 新入部員? #2 ver.1.0

 優乃は上機嫌で部室に向かっていた。というのも昨日3人でゲーセンに行き可愛いマスコットをいくつがゲットし、それをバッグにつけているからだ。


 可愛いマスコットを付けているというだけで幸せを感じる。しかも3人でお揃いのマスコット。


 仲の良いクラスメイトとも同じようなことをするが、てつがく部の面々とするのでは訳が違う。


「なにが違うんだろうな〜」と独り言を言って部室のドアを開けようとするが開かない。おかしいな。まだ雪希来てないのかな。


 職員室に鍵を取りに行くともう雪希が持っていったと言われた。なんだか雲行きが怪しい。


 もう一度部室に行くがドアは閉まったまま。


「ね〜 雪希〜? 中にいるんでしょ? 開けてよ」


 なんの返事もない。するとゆめがゆっくりと歩いてくる。こうやって見るとゆめはほんとうにおっとりとしている。「優乃さ〜ん」なんて声かけてくるし。


「ゆめ〜 ドアが開かないんだよ。雪希が締めちゃったみたいで」


「どういうことですの?」


「ウチがここ来たらドア閉まってて、職員室の鍵は雪希が持っていったって言われたんだよ」


「う〜ん。やはりこの前の方ですかね。雨宮さん」


「それはウチも考えた。やっぱ強引すぎたかなぁ……」


「それはあるかもしれませんね。困りました」


「雪希〜 話し合おうよ。当然だけどウチは新しい友人より古い友人を大切にしたいと思ってるからさ」


 反応なし。


「じゃあ一計を案じますか。名付けて天の岩戸作戦です」


 ゆめはそう言うと廊下でバッグを開いて、お茶やクッキーを広げる。優乃はなるほどと思って声を大きくする。


「うわ〜!! ゆめこれなんていうお菓子? めっちゃ美味しいよ。生クリームがふんだんに使われていて、ふわふわ! かと思ったらクッキー生地がサクサクだね!」


 優乃にあわせて、ゆめも大きな声で答える。


「実はこれフランス発祥のクッキー専門店で買ったんです。お値段は秘密ですが、楽しんで頂けたらうれしいです!!」


 こんなやりとりを二人でしてからヒソヒソ声にする。


「雪希さん全く反応してませんわ……」


「雪希は甘いものには目がないと思ってたんだけどな……おかしいな。せめて室内で動いても良さそうなのに……じゃあもう少し……」


「優乃さん食べ過ぎですよ〜 3人分あるのに2人分食べようなんて……!!」


「雪希がいればそりゃあげるんだけど。いないものは仕方ないよ。これ生ものみたいだし、ウチが食べるよ。雪希〜 いないの残念だなぁ……美味しいのに」


「何してるんだ?」


 2人の背後から唐突に雪希の声がする。


「「え?!」」


 ゆめと優乃がユニゾンする。


「あれ? 雪希どこにいたの? ウチらに気が付かれないように窓から出たとか?」


「なに言ってるんだ。ちょっとよく分からないが、鍵の件は悪かった。部室に行く前に鍵を借りたのだが、途中の図書館で祈と話し込んでしまって……」


「雨宮さん?」


「そ、そうです……雨宮です。ご、ご迷惑おかけして、しゅみません……噛みました」


 雪希の後ろからこちらを覗くようにひょっこっと頭を出した。まるで臆病な犬のように。


「え? どういうこと? じゃあ雪希今ままでこの部室にいなかったってこと?」


「そうだが?」


「加えて雨宮さんと仲良くしてったこと?」


「そうだが?」


「今までのウチらなにしてたんだよ」


「そうですね、その可能性に気が付けば良かったですね……」


 うーん、とゆめが頭を抱えてしまった。


「そこをどいてくれ、今鍵を開けるから」


 4人で部室に入って、ゆめが紅茶を淹れてくれた。


「どういうことだ?」


 雪希が話を切り出し、優乃が答える。


「実は今日、雪希が部室に閉じこもってると勘違いして」


「その点は済まなかった」


「それは別に良くて、ウチら雨宮さんのことが関係しているかと思ったんだよ」


「そ、その節は、えと。ご心配おかけしました。あ、えっとあれですよね。雪希先輩と関係が悪いと思われたんですよね」


「ごめんね。別に雨宮さんを責めてるわけじゃないんだけど……」


「これはべつに誰が悪いという話ではありませんわ」


「なるほど。子細承知したが、その心配はもうないぞ。な、祈」


 そう言って雪希が祈に目配せする。


「はい! 雪希先輩!!」


 キラキラとした笑顔でそれに答える祈。忠犬のようだ。優乃は恐る恐る声を出す。


「へんな質問なんだけど、2人ってもう仲よくなったみたいな?」


「はい! お話したのは数回ですが、雪希先輩と話していたら、すごく頭良くて私その、憧れちゃって……。今はもう雪希先輩と同じ空気吸えるだけで幸せなんです」


 祈はそう言って頬を赤らめる。


「というわけらしい。私としては好意を無下にできない」


「なんだよ〜 取り越し苦労じゃん!! 心配して損したわ。もうちょっと早く言ってよ〜」


「これが最短だったと思うが」


「よかったですわ。私どうなることかとヒヤヒヤしていました。レーズンサブレまだあるのでよかったらお二人とも……あら。残り1つですわ。どうしましょう?」


「祈と二人で分ける」


 しかしレーズンサブレは半分に割れず、大きい方を祈・雪希の二人が譲り合って、口論しているようだった。

 優乃はそれをぼーっと眺めながら4人お揃いのマスコットが欲しいなと考えていた。

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