情景に秘められた幻想的ホラー

 まず目を引くのは圧巻の描写力です。五感を刺激する精巧な筆致が物語の深淵へと引き摺り込まれるような感覚へといざないます。猟奇的な衝動性を孕んだスリリングで戦慄的な心音。そして葵が放った狂気からの解放。その怒涛の展開。まるでその場に居合わせるかのような疾走感あふれる臨場感を味わえます。終盤には退廃的なものに惹かれゆく心理が、遠く聞こえるサイレンの残響に共鳴し、ゆらめく切なさが溜息の熱に流れていくように美しいです。引き継がれた知悉たる記憶を胸に抱くシーンは凛として感動的です。
 類まれな発想力に、ほとばしる情景描写が見事にブレンドされ、ホラー要素を融合させた幻想的な小説に、あなたもきっと心を熱くすることでしょう。

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