深淵の書庫
神崎あきら
第1話
密に重なる鮮緑の天蓋から目映い木漏れ日が降り注ぐ。
ブナの木立が立ち並ぶ森は、さながら異国の神殿の荘厳な雰囲気に包まれていた。足元に広がるのは苔むす大地。毛足の長い絨毯の上を歩くような感触に遊ぶ。
蝉時雨の残響の中、微かに川のせせらぎが聞こえた。
陽の光を反射して川面が金色に煌めく。水は驚くほどに澄んでおり、川底の石ひとつひとつがくっきりと見えるほどだ。
川辺に降り立ち、透明な水を掬い上げてみる。感覚を奪うほどひんやりと冷たい水が指の隙間から滑り落ちていく。足をつけたらきっと気持ち良いだろう。背中をじっとりと濡らす汗も引くかもしれない。
北斗は靴を脱ごうと身を屈めた。ふと、視界に動くものを捕えた。
岩陰に誰かいる。北斗はこの場所が自分だけのものではなかったことに、少しがっかりした。靴の踵を踏んだまま、岩の向こう側を覗き込む。
はっと息を呑むほど白い背中が見えた。水に濡れる滑らかな肌はまるで白磁のようだ。肩にかかる艶やかな黒髪がその白さを引き立てていた。艶然としたたおやかな背中に、女性が水浴をしているように思えた。
白い背中は透明な水の中へ消えてゆく。
再び水面に浮上したその横顔は、凜とした佇まいの男だった。年の頃は自分と同じ、十四、五歳くらいか。少年というには大人びて、青年というには幼い印象を受けた。
視線を感じたのか、彼がこちらを振り向いた。水を纏う憂いを帯びた表情は中性的でいやに妖艶で、妙な背徳感を覚えて北斗は慌てて目を逸らす。
彼が口角を微かに上げる。
北斗は弾かれたように後退り、振り向きもせず走り出した。苔むす岩を踏んで転びそうになりながら夏草の茂る獣道を抜けて遊歩道に出たとき、ようやく夢から覚めた心地がした。
彼はこちらに気が付いただろうか、蝉の声に自分の存在が掻き消されていたらいい。都合の良い考えで混乱する記憶を上書きする。
これが
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