"プロローグ"
ゼイルは時空石を掲げ、魔力を込める。
時空石は強い光を放ち、砕けた。
空間が裂ける。そこから見えたのは巨大なビル群が立ち並ぶ都市——ゼイルたちが元々いた世界だ。それを上空から見下ろすような形で空間が開いていた。
「元の世界に帰れるのは1人だけ」
ゼイルは確かめるように呟いた。懐中時計を一瞥する。残り、10秒、9秒。
「それでは、お元気で」
ゼイルが合図をすると、リンが術式を唱える。空間転移術。任意の物質をその重量に関係なく移動させる魔術だ。
空間の裂け目から、現代日本に向かって、ひとつの影が落ちていく。
それをジョー、アイラ、リン、そしてゼイルは見送った。
こうして、ファンタジー世界の魔王は現代日本に降り注いだ。
2秒、1秒。魔王が地面に着くと同時に、空間凍結術の効果が解けた。
魔王が右腕を力任せに振る。ビルの数々が容易く粉砕され倒壊する。
「怪獣映画みたいっすね」
ジョーが屈託のない笑顔で言った。魔王は都会の街並みを思うがままに踏み潰している。人々が長い年月をかけて作り上げた営みが次々と蹂躙されていく。
空間の裂け目は少しずつ薄くなっていく。
魔王にミサイルが炸裂する。魔王は怯むことすらなく暴走を続ける。絶望の眼差しで見つめる人々がそこにいた。
都市を象徴する200mのビルが、中ほどから折れ、地面に落ちた。その光景を映すと、裂け目は完全に消えた。
ゼイルは時空石の欠片を手から払い、ひとつ息を吐いた。
朝日が、地平線から顔を出していた。光が広大な森林を照らしていた。世界に果ては見えず、どこまでも広がっていた。
リンはゼイルの顔を覗いた。光に目を細めるその顔は、今まで見たことがないほどに晴れやかであった。
「さあ、行こうか」
4人は荷物をまとめて魔王城を発った。
結論が出てから、長い時間があった。
4人は、行きたい場所、やりたい事、欲しい物について心行くまで話し合った。
この星は地球の20倍の広さがあるという。人類未到の地も多い。誰も真偽を確かめていないお伽話も数えきれないほどある。
全員が、まだ見ぬ物語に思いを馳せた。
もう彼らに憂いは無かった。未来は明るく、どこまでも続いている。
ゼイル、ジョー、アイラ、リンは朝日の昇る方に向かって歩き出した。
「僕たちの冒険はこれからだ!」
僕たちの冒険はこれからだ! 〜異世界に転生したけど元いた世界に恨みがあるので最強の復讐をします〜 北 流亡 @gauge71almi
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