距離感の掴めない恐怖

絶海の孤島……響きはいいが、実際に身を置くとなれば恐怖でしかない本作の舞台。海洋への脱出を図れば、すぐさま巨大な魚に襲われ、骨も残らない残酷性を孕む。
この物語は主人公の男性がひょんなことに誰も手の届かない白い塔という名の牢獄に閉じ込められ、そこから脱出を図るストーリー。物々しい雰囲気が煽動的な恐怖を纏い、また恐ろしく少ない登場人物の設定が脳内ストレスを抑制するが故、一層単純化された恐怖情報が脳裏へと加速的に焼き付くようだ。人間のもつ特性や習慣性を突き、意図的にそれらの逸脱を図ることで常識が破られ、その先に拡がる上質なホラーへといざなう。情報操作と心理操作とが巧みな互換性を生む、作者の手腕が光る一作。

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