全知リサイクル
最近学校の近くにできたリサイクルセンターが、なにやらすっごいスリリングらしくて、いやスリリングだろうがなかろうが女子高生が放課後に友だちと行く類いの場所それ? って思ったんだけど友人のミナナがしつこく誘ってくるので、放課後、一緒に行ってみた(優しさの権化なんだ私)。
「わー狭っ! こんな狭さでセンター名乗ってんの生意気すぎでしょっ!!」
センターのドアを開けて入室するや否やわーきゃー騒ぎ出すミナナ。確かになんたらセンターって広めな敷地のイメージぼんやりあるけど生意気か? いやまあ生意気かー。実際このセンターは雑居ビルの一室で、広めのエレベーターぐらいの敷地しかないし、たいがい生意気だなうん。で、そんな敷地内に存在してるものといえばパイプ椅子とパイプ椅子に座ったガッッッッッリガリの白衣のおじさん一人。うーん、確かにミナナの言うとおりスリリングだなこの時点ですでに。
「では頭を見せてくださーい」
挨拶とすべての説明をすっ飛ばしてガリガリ白衣が言う。
「はーい!」
で、すべての疑問をすっ飛ばしてミナナがガリガリ白衣の目の前に自分の頭を突き出した。それはもう頭突き喰らわさんばかりの勢いでバシュッと。私この行動力が好きなんだよねこいつの。
するとガリ白はミナナの頭頂部を、ファーブルが昆虫観察するとき張りにじっくり見つめて(いや知らないけどねファーブルのそれは実際は)ふうむ、とか思わせぶりにつぶやいて、
「買い取り、三千円ですねー」
と言った。え、なにが?
「え、なにが?」
思ったことがそのまま口から出た。と、ガリ白はこっちを見て、
「知能」
と一言。あーそういうね、はいはい、意味わかんない系ね。
「えっ、あたしの知能三千円なの?」驚きの声をあげるミナナ。「めっちゃ高くない?」
「いや高くは……いや高いか」
高い気がしてきた。一番の友人であるという事実をかなぐり捨てて冷静かつ客観的に評価するけど、ミナナ、頭わっっっっっるいもんなー。道に落ちてるものとか平気で食うし。ちゃんと吐くけど。あ、そのへん? ちゃんと吐くあたりが三千円という査定?
「買い取りに承諾して頂ける場合は、サインをお願いしますー」
ガリ白が言うとミナナは満面のニコニコで「はいはいはーい!」と元気いっぱいにサインを見せた。高く挙げた両手で大きな○を作って。ほーら頭悪い。そしてかわいい。
そんなミナナの○を見たガリ白は、うんうん、と満足げに頷いて、かと思うと白衣のポケットからバカデカチェーンソーを急に取り出して、ぐうぇーんぐううううぇーんっとエンジンを掛けたと思った次の瞬間にはミナナの頭を大回転する刃でぎゅいぎゅいぎゅいぎゅいごりごりごりごりごりごりごりごりいいいいいいっと豪快に斬り開いていくっていうかじゃあポケットがでかいってこと? チェーンソー入ってたもんね中に? 目の錯覚的な? てか血しぶき目に入った痛ってえ、しかも両目。痛てえ。
両目を擦り擦り、真っ黒な視界の中で耳だけ澄ます。
「硬いなー」ごりごりごりい。「硬いわー」ごりごり。「硬いよお」ごりごりごり。「ほんとに硬い」
硬さのことしか言わないじゃんガリ白。もっと語彙出して実況くれよ。見えてないんだからこっちは。
と、ごりごり音と無語彙実況がぴたっと止まった。
ゆっくり目を開く。
床真っ赤、壁真っ赤、天井真っ赤、パイプ椅子真っ赤、ガリ白不在。不在? 斬り逃げ? ついでにミナナも不在。不在? 斬られ逃げ? いや斬り逃げはまだしも斬られ逃げになんの得が? まあ得のないことするのがとてもミナナっぽいけど?
ぽっかーんとする私の目に飛び込んできたのは、赤くてびしょびしょなパイプ椅子に置かれた赤くてびしょびしょな紙片。……お札だ。
近づいて見てみると、それはくっしゃくしゃになった三枚のティッシュ。ティッシュじゃん! あいつ踏み倒しやがった三千円!
で、翌日。
ミナナはごくごく普通に学校に現れた。死んでなかった。あんなに血出したのに? と思ったけど話を聞いてみたらあのあと即移動からの止血と輸血の処置がされたらしく、なんだよ結構ちゃんとしてんじゃんガリ白、と思った(支払いティッシュだったけど)。
ただまあ処置はそれなりに適当だったっぽくて、その証拠に切り取り線みたいな存在感濃いめの縫い目がミナナの顔の真ん中を上から下までくっきりと縦断していた。うーん、こいつ今年のハロウィンノーメイクでいけるな。
「なんかねー、頭がさー、ぼおーーーーっとしてさー、めえっちゃ気持ちいいよーーーーーー」
とか、そんぐらいのセリフ量を二時間半かけて喋るミナナのよだれ垂らしたふわっふわの笑顔を見てると、うーん、そんなら買い取ってもらっちゃおうかな知能、と決意が固まってくる私なのだった。……単純にお揃いにしたいしな、ミナナと。ティッシュで払われたらブチギレるけど、うん。
#放課後デスさんぽ 百壁ネロ @KINGakiko
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