#放課後デスさんぽ
百壁ネロ
有害ラーメン
最近学校の近くにできたラーメン屋が、なにやらすっごいバカみたいにまずいらしくて、その情報聞いて行くわけねえだろって思ったんだけど友人のミナナがしつこく誘ってくるので、放課後、一緒に行ってみた(友だち想いなんだ私)。
「わーすごっ、めっちゃ人倒れてる! そぉーとーまずいってことじゃんこれっ! 期待高まりすぎるっ!」
店に入るや否やわーきゃー騒ぎ出すミナナ。何に期待高めてんだお前っていうのは置いとくとして確かにミナナの言うとおり、店の床には客と思しき人が大量に倒れていた。全員微動だにせず。ぱっと見で、十、いや二十……いや無理だ数えらんない。だって店の角のとこ、こんもり小山みたいに積み重なってるし、人々。
そんな(ガチで)死屍累々な光景をぼんやり見ていると、ミナナがカウンターの椅子にドカッと座って、
「ラーメン絶盛り二つくださーいっ! あっ、クルル(私の名前だ)もおんなじのでいーよねっ?」
いや頼んだあとで訊いてくるなよ、あと絶盛りってなんだおっかねーとか言いたいことは数あれど、とりあえず素直に頷いとく(おなか減ってたし)。
すると、カウンターの向こうに佇む葬式ばりに真っ黒いTシャツと同じく真っ黒いハチマキを身につけたおじさんが、
「麺と毒と弔いどうしましょー」
と死んだような目で尋ねてきた。そしてこれ見よがしに『毒!』と書かれたラベルが貼られた真っ黒い液体入りのビンを私に見せつけてきた。はー、そういう感じなんだカスタム要素。もうまずいとかじゃなくて毒入れてくるんだ堂々と。
と、隣りのミナナはちょっと考えて、
「えーっとねー、麺は硬めでー毒は濃いめでー弔い多めっ!」
とか元気いっぱいに注文する。おおー、このチャレンジ精神は見習っていきたい。てか多めとか少なめとかなんだ弔いのカスタムって。
すると、死ん目おじは二度ほど頷いて、
「はい硬め濃いめ多めいっちょおー」
とかぼそぼそ言いながら毒ビンを置いて、両手を合わせゆっくり一礼した。早くも弔ってない? とぼんやり思いつつ、私も続いて注文する。……と言っても、別にこだわりないので、
「じゃあ、私、全部普通で」
「あーごめんなさい、毒は濃いめしかないんですー」
「……あー、そうすか」濃いめができるなら薄めもできるだろ絶対。「なら、えーっと、私いいです、ラーメン」
「はい硬め濃いめ多めいっちょおー」
わー、全然頼んでねえー。
再び両手を合わせてゆっくり頭を下げ始めた死ん目おじを眺めているとなんだかだいぶバカらしくなってきて空腹もどっかに行ったので、うん、よし、帰ろ、と私は席を立つ。
「あれークルル帰っちゃうの? 食べてないじゃん」
「うん、食べたら死ぬんじゃねーかなと思って」
「ラーメンで死ねたら本望すぎるでしょ!」
「私そこまでの感情ないよラーメンに」
「あたしもないけどね感情っ! あはははっ!」
笑ってるので〝喜〟の感情はありそうだな、とかどうでもいいことを考えつつ店を出る私。後ろ手にドアを閉める背後から「ラーメン一丁お待ちどうー」と声が聞こえてきて、いや完成早すぎるよ絶対茹でてないだろ麺、と考えていると、いやにきっちりした黒スーツを着た男性三名が、なにやらものものしい様子で私と入れ違いにラーメン屋に入っていた。はー、意外と繁盛してんのかな、メシログの評価☆0.3だったのに(そういうの事前にしっかり調べるタイプなんだよね私。あと誰だよちょっとでも☆入れた奴)。
で、翌日。
ミナナはごくごく普通に学校に現れた。死んでなかった。こいつもしや毒耐性が……? と思いきや、
「なんかねー保健じょ? 保健しょ? 保健ショー? の人来てあたしのラーメン捨てられちゃったんだよー、床にぶん投げられて。なんかね、店に死体転がってて不衛生だからえいぎょーていしなんだって! 厳しすぎじゃないっ!?」
ぶーぶーと不満げにほっぺたを膨らませるミナナの頭をわしゃわしゃ撫でてやりながら、そっかー毒のほうはセーフなんだー世の中知らないことってまだまだあるもんだ、と感心する私なのだった。……これがほんとの『毒を喰らわば皿まで』だな(どのへんが?)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます