終わらせた男
「ねえお父さん」
「うん? なんだい、エミュリー」
薪割りの様子を見ていた愛する娘は、ふと思い至ったかのように話しかけてきた。
「どうしてお父さんの頭には髪の毛が無いの?」
「……あー」
「イーシャのお兄ちゃんにも、ドロトーも、レザレス王子も、みんな髪の毛あるよ?」
純粋な疑問だったのだろう。小さく首を傾けながら問いかけてくるその顔は、心底不思議そうだった。
思わず頭に手をやり、苦笑いを浮かべる。触れる頭部からはざらついた肌の感触が伝わってくる。
斧を薪割り台に置いて近づいていくと、エミュリーは傍のトレイに置かれた水の入ったグラスを「ん」と差し出してくれた。
私はグラスを受け取り、一口含む。冷えたそれを飲み下し、少し考えてから、私は正直に答えた。
「昔にね、使うと髪の毛が抜けちゃう剣を使って戦ってたんだよ」
ぱちくり。ゆっくりな瞬き。そして。
「……ぷ、んふふ、もう! そんなのあるわけないじゃん!」
眉尻を下げ、からかうように笑う。その笑顔を見て、私も口元を綻ばせる。
「いいや? 本当本当。わるーい魔物と戦ってたんだ」
「髪の毛抜けながら?」
「髪の毛抜けながら」
あたりにエミュリーの笑い声が響く。つられて私も大声で笑って見せた。
ふと、旅に出ていたあの頃の光景がふと頭に浮かぶ。
たまには、あの装備も掃除するか。
自室の隅に飾られている、埃の被った無駄に頑丈な兜を思い浮かべ、私はもう一度大きく笑った。
命を奪うたびに生え際が後退する聖剣 低田出なお @KiyositaRoretu
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