第13話 予算はないが



「オスカー様がレオンハルト殿下の部下になってしまったら、殿下の婚約者候補から外され…そしておそらくは、その後ほとぼりが冷めるまで、私と婚約は無理だったでしょう」


(まー直属の上司の、婚約者候補は略奪できませんよねー)


 候補から外れてすぐに婚約も、当て付けがましいと取られそうだし…


「私はおそらく、リース公爵令嬢がご婚約者になると思っています。ですが、あの方はまだ御年11か2。婚約が調ととのうまでに時間がかかるでしょう」


 相手が見るからに子供では、コンラッド侯爵が黙っていない。

 身分はリース公爵家に適わないが、コンラッド侯爵家も羽振りの良い貴族である。

 宮廷内の発言権も強い。

 

(そして、例えユリア嬢が婚約者になっても、身分でふさわしくないと言って来るだろう)


 どちらにせよ、己の娘の方がふさわしいとゴリ押してきそうで、王室としては緩衝材としてのユリア嬢を候補から外したくなかった筈だ。


(これって、コンラッド侯爵がいなければ、とっくにリース公爵令嬢で決まってた話だよね)


 ずるする引き伸びたから、ユリア嬢も抜ける事ができず、ベアトリス嬢の家にも招待状が届き続ける。

 常識的に考えれば、ユリア嬢も卒業でさすがに解放された筈だが、常識が通じる相手ではない可能性もあった。


(解放されたとしても、結婚したい相手が既に王子の騎士になってると、色々忖度が働いた筈だ)


 貴族男性は20過ぎても、30までは適齢期と言えるが、残念ながら女性はそうじゃない。

 ユリア嬢も、卒業後すぐに婚姻可能な、他の男性を勧められただろう。



「皆様のご厚意のすえ、私は運良く想いを成就させることが出来ましたが、妃殿下はご不快に思われたのでしょう。オスカー様のところには、『以前の話はなかったことに』と使者が来たそうです」


 正式な発表はなかったとはいえ、第二王子の婚約者候補として周知されていた令嬢が、王子の婚約前に婚約したのだ。

 あまり重要視していなかっただろう相手でも、王妃としては面白くなかったんだろう。


(ほぼ感情で動いているような方だなぁ…)


「オスカー様は、これで良かったのだ、とおっしゃってくれましたが…」


 ベアトリス嬢も強く頷いているし、自分も心底そう思う。

 どう考えても、関わらない方が良い相手だ。


「殿下直属の騎士団の隊長であれば、紛れもなく出世でしょう。私が、その邪魔をしたのではないかと…」

「…少々、お待ちください」


 すっかり、憂い顔になってしまったユリア嬢の言葉を、僕は遮った。

 淑女の言を遮るなんて、紳士にあるまじきことだけど、これ以上、本日の主役の顔や心を曇らせる方が問題だろう。


「殿下直属の騎士団とのことですが…近衛騎士団でも、幾つかの小隊に分かれてますよね? その一つをという事でしょうか?」


 それなら、前例がないでもない。

 王妃や王子や離宮に滞在する際は、その専属として付く筈だ。


「いえ…近衛騎士団とは別に、というお話でした」


 常識的解釈は打ち砕かれたので、遠慮なく指摘した。


「それは不可能です」


 あっさり断言した僕を、ベアトリス嬢が鋭い目で見た。


「国家には予算というものがあります。少なくとも今年度の予算には、新設の騎士団のものはなかった筈です。それに…」


 ここが一番重要。


「…騎士団というのは、本当にお金がかかります。例えば2、30人の小隊としても1年維持するのに、そうですね、宮廷晩餐会10回分…といえば分かりやすいでしょうか?」


 前世で言えば、数千万単位である。

 想像もつかない額に、ご婦人方が目を丸くした。

 よく××伯夫人のドレス代浪費が…なんて話題があるけど、そんなの軍馬と比べればカワイイものだ。

 歩兵と違い、騎士は装備や馬がシャレにならない。


(しかも新造部隊だと、練兵場も厩舎も何もないんでしょ? 土地売買が絡むなら、晩餐会10回じゃ到底済まないよ)


 その手のゲームでもそうだったし、こちらへ来てから読んだ歴史書(父推薦図書)でも、国が一番苦心するのは軍隊の維持費だ。

 維持するだけでも大変だが、実際に遠征や、戦をするなんていったら、費用は当然、天文学的数字になる。


「つまり、小規模でも騎士団を作るとしたら、いきなり話し合いでどうこうできる規模の額ではありません。前もって各所への根回し、打診があって然るべきなんですが、そんな話は噂でも聞いていません」

 

 幸いな事に、現在、近隣諸国は落ち着いているので、この国が戦をするのは魔物退治が主だ。

 そして魔物相手だから、勝っても当然、領地や賠償金は入らない。

 国の維持に必要だからこそ、費用が出せるのだ。


 そこまで考えて…一つ、予算が出る可能性に思い当たる。


(…だけど王妃が、お気に入りの王子に、『魔物退治』なんてさせるだろうか?)


「では、妃殿下のお話は空論であったと?」


 ベアトリス嬢が、僕に尋ねた。

 どうしようかと思ったが、差し障りのない範囲で答えた。


「…少なくとも、新しい鎧や馬その他、軍に必要な物資が、動いている様子はありませんね」


 王妃が秘匿している事に関しては、宰相の息子が知り得る情報は大したことがないかもしれない。

 でも王都の物流の変化は、僕でも見逃してないはずだ。

 だてに、兄の諜報部員をやろうと思っていないのだ(頓挫したが…)。







************Atogaki



…軍隊:人間ひとりひとりの維持費も大変ですが、騎馬もホンマにお金かかります。

…馬車と違って、鎧兜剣しょった人間乗せて疾走する軍馬は貴重品です。

(現代でもサラブレッドは1千万円は普通にしますーいい馬だと1億越えもざらだとか…(◎_◎;))



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「あなたを愛することはない」と妹の彼氏から言われました ~お兄ちゃんはその男ちょっと心配だな チョコころね @cologne

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