チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【54】学生寮で殺された男子大学生【なずみのホラー便 第150弾】

なずみ智子

学生寮で殺された男子大学生

【問題文】


 とある学生寮の一室にて、男子大学生の占部 周週朗(うらべ しゅうしゅうろう)さんが殺害されました。

 机の上には彼が直前まで食べていたお弁当と読みかけの本が残され、床の彼の遺体の近くには血の滲んだ一膳の割り箸が一本ずつ床に「―― ――」といった状態で並べられていました。

 なお、その床に並べられた割り箸の近くには、絶命する前に占部さん自身が血で書いたと思われる「6」という数字も残されていました。


 学生寮には外部からの不審者の侵入の形跡はなく、犯行推定時刻、学生寮内にいて、なおかつアリバイが証明できなかった者は以下の五人の男子大学生に絞られたのです。


・ 六角 線次(ろっかく せんじ)

・ 糸目 四郎(いとめ しろう)

・ 土熊 大地(つちぐま だいち)

・ 雷島 六太(らいじま ろくた)

・ 山風 春水(やまかぜ しゅんすい)


 現場にはあまりにもはっきりとしたダイイング・メッセージが残されていたので、名前に「6(六)」が含まれている二人の学生に当然のごとく疑いは集中します。

 当代きっての名探偵と名高い百田一 忠助(ももだいち ちゅうすけ)も事件現場に呼ばれました。

 百田一 忠助は、占部さんが残したダイイング・メッセージを見た後に、部屋の中をぐるりと見回し、「なるほどね」と言い、名前に”「6(六)」が含まれていない”一人の男子大学生の名前をあげ、彼が犯人だと告げました。

 事実、犯人は百田一 忠助が名前をあげた男子大学生であり、ほどなく逮捕となりました。

 さて、なぜ、百田一 忠助は被害者の占部さんが残したダイイング・メッセージから犯人に辿り着けたのでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : 名前に「6(六)」が含まれている二人、六角 線次さんと雷島 六太さんは犯人候補から完全に除外され、残る三人のうちの誰かが犯人だと……しかも、今回の問題は”犯人が誰か?”ではなく、被害者の占部さんが残したダイイング・メッセージから、なぜ、名前に「6」が含まれていない犯人に辿り着けたのかということですよね。


チエコ先生 : 今回の問題は難しいと思うから、先生が後で詳しく解説するわ。まずは、キクちゃんが疑問に思うことを質問してみて。


キクちゃん : 被害者の占部さんが残したダイイング・メッセージの「6」という数字は、犯人の名前に関係していますか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : ……NOという返事が返ってくるものだと思っていました。「6」という数字は犯人の名前に関係しているけど、実際に犯人として逮捕されたのは名前に「6」が含まれていない人物であったわけですし……うーん……。


チエコ先生 : キクちゃん、もう一度、問題文を読んでみて。現場に残されていたのは「6」という数字だけかしら?


キクちゃん : 机の上には占部さんが直前まで食べていたお弁当と読みかけの本が残されていて、遺体の近くには血の滲んだ一膳の割り箸が一本ずつ床に「―― ――」といった状態で並べられていたんですよね。……血の滲んだ割り箸とありますが、この割り箸を並べたのは被害者である占部さん自身ですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : 並べられた割り箸と数字の「6」の両方が占部さんが残したダイイング・メッセージということですね。この二つですが、”仮にどちらかが欠けていた場合”、犯人の名前を示すダイイング・メッセージとして成立していましたか?


チエコ先生 : NO。成立していなかった。


キクちゃん : 並べられた割り箸と「6」の二つが揃っていたからこそ、百田一 忠助は一発で犯人が誰であるか見抜いたと……。


チエコ先生 : そうよ。割り箸がどんな風に並べられていたのかにも、注目してみて。


キクちゃん : 一本ずつ床に「―― ――」といった状態で並べられていたんですよね。………………あ! 犯人が分かりましたよ! 「―― ――」は糸のような目を示していて……なおかつ、この並べられた割り箸はマイナス(―)記号ならびに漢数字の一という三重の意味を持つ、ダイイングメッセージで……糸のような目は「糸目」、そして「6」から1を2回マイナスしたなら4! ということは、犯人は糸目 四郎さんですね?!


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : …………違いましたか。糸目さんも犯人から除外されたから、残る二人、土熊 大地さんか山風 春水さんかのどちらかだと。でも、どちらの名前にも並べられた割り箸や「6」という数字に関係する要素はないような……。


チエコ先生 : ここからは先生と一緒に解いていきましょうか。キクちゃん、「―― ――」の状態に並べられていた割り箸が6セットあると考えてみて。そして、その6セットの割り箸を縦に並べてみて。


キクちゃん : 「6」という数字は、”✕(かける)6”ということだったんですね。実際に縦に並べて見たら、以下のようになります。


―― ――

―― ――

―― ――

―― ――

―― ――

―― ――


チエコ先生 : 何らかの記号のようにも見えるわよね。これはね、「易経」における六十四卦の一つ、「坤為地(こんいち)」を示す卦なのよ。


キクちゃん : ? ……何ですか、それは?


チエコ先生 : 紀元前1100年頃、中国の周の時代の王である文王が生み出した「周易」が現在にまで伝わっている「易経」の始まりとされているわ。易の根源は「太極」であり、その太極は陽と陰の「両儀」を生み出す。易では「―――――」を陽、「―― ――」を陰と表すの。そして、それぞれに陽と陰が加えられて「四象」となり、さらに陽と陰が加えられて「八卦」となるの。ちなみに八卦は以下となるわ。


【1】乾(天)

―――――

―――――

―――――


【2】兌(沢)

―― ――

―――――

―――――


【3】離(火)

―――――

―― ――

―――――


【4】震(雷)

―― ――

―― ――

―――――


【5】巽(風)

―――――

―――――

―― ――


【6】坎(水)

―― ――

―――――

―― ――


【7】艮(山)

―――――

―― ――

―― ――


【8】坤(地)

―― ――

―― ――

―― ――


チエコ先生 : この八卦と八卦を組み合わせることで、六十四卦となるの。上の図で言うなら、「坤(地)」と「坤(地)」が組み合わされたということね。


キクちゃん : 「易経」の話は難しくて、一度聞いただけじゃ理解はできそうにありませんが、「坤(地)」と「坤(地)」が組み合わされて「坤為地」となり……これが、犯人の名前を示しているのだとすると……上の名前と下の名前、すなわち、名字と名前の両方に”地”に関連する漢字が含まれている土熊 大地さんが犯人だったということですか?


チエコ先生 : YES。名探偵・百田一 忠助は、現場となった部屋の中をぐるりと見回した時、机の上に置かれていた読みかけの本が易経について書かれた本であることに気づいたの。さらには、占部さんの本棚にも易経関連の本が何冊も並べられていたのよ。被害者の占部さんも易経に精通していたこと、それに百田一自身にも易経の知識が多少なりともあったから、ダイイング・メッセージが「坤為地」を示す卦であることに「なるほどね」とすぐに気づいたのよ。



(完☯)

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