第5話
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(そう言えば……)
以前は乗り越えようとした陸橋の手すりに体を預けながら、ふと、先日同僚から聞いた話を思い出す。
『この前、ビルの屋上から若い女が飛び降りるのを見たんだよ!慌てて下を見たんだけど……何も無かったんだ。でも俺、間違いなく見たんだよ、女が飛び降りたの!なんか、モヤモヤするんだよな、あれからずっと』
それはきっと、死神だよ。
そう教えてやろうとも思ったが、説明が面倒なので、やめた。
というか、【死神】についての正しい説明が、俺にはできそうもない。
【死神】だと言えば、きっと同僚も一般的な【死神】を思い浮かべてしまうだろう。
でも、同僚が見たのは間違いなくそれじゃない方の【死神】なのだ。
あの口の悪い死神の女の子に言わせれば、俺は「著しく理解力が乏しい」らしいが、説明力もそれほどある訳じゃない。
……また、呆れられてしまいそうだが。
あれから-死神の女の子と会ってから、会社の資料を調べ直し、俺は自分の無実を証明した。だから、そのまま働き続ける事もできたが、考えがあって自己都合で退職した。俺に罪を被せようとした上司は諭旨退職での退職だ。
元カノにも連絡を取り、事情を全て聞き出して、無事取られた蓄えを戻してもらうことができた。
俺としては、めでたしめでたし、だ。
本当に、あの時死ななくて良かったと思う。
だが。
きっと今もどこかで、あの女の子は-死神たちは、自殺志願者の身代わりとなって、死に続けているのだろう。
結局、死神が死んだらどうなるかは教えてもらえなかったけど、あの子は今頃どうしているのだろうか。
元気に、しているだろうか。
『相変わらず、お人好しな奴じゃの』
ふと、あの女の子の声が聞こえた気がして、辺りを見回してみた。
が、辺りに人の姿は無い。
『わしが同じ人間に二度も姿を見せると思うか、馬鹿者。まぁ、おぬしのような著しく理解力の乏しい人間とならば、たまには言葉を交わすのも愉快なものじゃがの』
間違いない、この口の悪さは、あの死神だ。
良かった、元気にしているんだな。
そう思って、俺は笑った。
【元気な死神】というのが、どうにも可笑しくて。
『ほんにおぬしは失敬な人間よのう』
呆れ声の中にも、気のせいか優しさのようなものを感じる。
いや、優しくないはずがないんだ。
だって、彼らは人間を生かすために、身代わりとなって死ぬ死神なのだから。
『よいか、おぬしは必ず天寿を全うするのじゃぞ』
「ああ。わかった」
姿の見えない死神に、俺は大きく頷いた。
俺は今、死を考えてしまっている人たちの相談窓口の仕事をしている。
少しでも、あの口の悪い死神が死ななくて済むようにと。
【終】
死神~じゃない方~【改稿版】 平 遊 @taira_yuu
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