第4話

「待て待て。まだ答えを聞いてないぞ」

「なんじゃ」


 不機嫌そうに顔をしかめ、女の子は立ち止まる。


「死神は死んだらどうなるのかって」

「己の頭で考えよと、言うたであろう」

「分かるわけないだろ。俺、普通の人間なんだから」

「わしには答えられぬ。一度しか死ねぬ人間が知って良いものではない」


 一度しか死ねぬ人間。


 そのフレーズが、妙に胸に刺さった。

 この子は、何度も死ねる死神。

 いや、何度も死ななければならない、死神。

 いくら死神とは言え、その死には多くの場合苦痛が伴うはずだ。

 それを何度も繰り返さなければならない彼らは、いったいどれだけの苦痛をその身に受けてきたのだろう?


「じゃあ、なんで身代わりなんてするんだ?」

「それが死神の務めじゃからな」


 納得いかない顔の俺を見て、女の子は


「ああ、おぬしは著しく理解力が乏しいのであったな」


 と失礼な言葉を吐き、諦めの顔で言葉を継ぐ。


「天寿を全うもせずに死を望む人間が存在する限り、わしら死神は身代わりになって死に続ける。わしらが死ぬことにより、その人間から死への欲望が取り除かれるからじゃ。わしら死神は、人間に天寿を全うさせるためだけに存在しておるのじゃよ」


 そこまで言ったところで、女の子の顔が歪んだ。


「近頃ではそのような人間が多過ぎて、間に合わぬことも多いが……口惜しいのう」


 もうよいな。


 とばかりに俺の手を振りほどき、女の子は再び歩き出す。

 その背中に、俺は最後の疑問を投げ掛けた。


「なぁ、なんで小さい女の子の姿なんだ?」

「なんじゃ、妙齢の若いおなご姿の方が、良かったか?」


 振り返って、女の子は笑った。


「わしらの姿は決まってはおらぬ。中には、おぬし好みの若いおなご姿の者もおる。わしが幼子の姿を取っておるのは、死の瞬間の衝撃を少なくするためじゃ。まぁ、ほんの気休めじゃがな」


 言い終えると、女の子は今度こそ振り返らずに歩き続け、陸橋の角を曲がった。

 走って追いかけてはみたものの、女の子の姿はもう、どこにも無かった。

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