第3話

「なぁ、死神って、死んだらどうなるんだ?」

「どう、とは?」


 足をブラブラさせて、女の子が俺を見る。

 これは夢なんじゃないかと思わないことも無かったが、頬をつねれば痛さを感じるし、何度目を擦ったところで女の子の姿が消える訳でもない。

 ならばと、疑問に思った事を女の子に聞いてみたのだが。


「ここから何度も落ちてるって、言っただろ?ってことは、何回死んでも生き返るってことか?」

「使わぬ頭は、すぐに衰えるのじゃぞ。少しは己の頭で考えよ」


 小首を傾げた可愛らしい女の子には、全く似つかわしくない声と言葉。

 もはや、何が正解かわからない。


 この子は死神だと言うし、俺の頭の中読んでるし。

 だからといって、大人としては、小さい女の子をこのまま放ってはおけないし。

 だって、やっぱりこの子は普通のただの女の子で、俺の頭の中読んでるっていうのはただ偶然が重なってそう感じただけで、本当は迷子になって困っているのに強がっているだけなのかもしれないし。


 すると、女の子が少しだけ笑った。


「ほんにお人好しな奴じゃの。そんなことじゃから、他の人間の過ちを押し付けられるのじゃ」

「えっ?」

「あれは、おぬしの過ちではないわ。上席の人間の過ちじゃ。よく考えれば分かるはずじゃがのう」


 最初、この子が何を言っているのか俺には分からなかった。


「鈍い奴じゃ」


 だけど、この話の内容って……


「そうじゃ。仕事の話じゃ」

「嘘だろ?」


 俄には信じることができず、思わず呟いていた。

 だって、今回のミスの件で誰よりも慰めてフォローしてくれたのは、上司だったのだから。


「当然じゃろう。己の過ちを配下の者に押し付けたのじゃから。罪悪感を持っておるだけ、まだマシな人間なのかもしれぬな」


 まるで、『おなかいっぱい。もう食べられない』とでも言っているような軽い口調で、女の子はとんでもない事を口にする。


「ついでにもうひとつ教えてやるが」


 視線を車の流れに戻し、彼女はまたも衝撃的な言葉を口にした。


「おぬしが添い遂げようとしていたおなごは、最初から他の人間と添い遂げるつもりであったのじゃよ。おぬしの蓄えを無断で持ち出したのは、そのおなごじゃ」


 ……マジ?


 衝撃があまりに強過ぎて、言葉も出てこない。


「時におぬし、まだ死を望んでおるか?」

「えっ?」


 気づくと、女の子はじっと俺を見ていた。


「天寿も全うすることなく、死を望むか、と聞いておる」

「……いや」


 女の子の問いに、俺はこう答えていた。

 本当は、死ぬつもりでここに来た。

 だがもう、色々と衝撃的なことが盛りだくさん過ぎて……

 いつの間にか、死ぬ気が失せていた。


「では、わしにはもう用は無い」


 手摺から陸橋側に器用に飛び降り、女の子はそのまま立ち去ろうとする。

 俺はとっさにその手を掴んだ。

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