第2話

(え?死神って、あの?)


 すぐに頭の中に浮かんだのは、よく漫画や本の挿絵などに描かれている、大きな鎌を持ち、ボロ切れを纏った骸骨の姿。


「『それ』ではない方じゃ」


 女の子が盛大に溜め息をつく。


(『それ』ではない死神って……?)


 もう一度、さらに盛大な溜め息をついて、女の子は言った。


「人間の身代わりとして死ぬ方の、死神じゃ」


 生まれてこの方、俺はそんな死神の話など、聞いたことがなかった。

 死神と言えば、死が迫っている人の枕元に現れるという、大きな鎌を持った骸骨の姿を思い浮かべる人が大半なのではなかろうか。


「それは、迎え神というのじゃ。加えて言うならば、迎え神は鎌など持っておらぬし、骸骨の姿もしておらぬぞ。まったく、人間の想像力というものは逞しいものじゃな。それほどまでに死が怖ろしいか」


 迎え神?そんなの、初めて聞いたぞ。

 で、どうでもいいけどこの子、確実に俺の頭の中、読んでるし。


「当然であろう。人間の思考も読めぬようでは、身代わりなど務まるまい」


 小バカにした目で俺を見て、女の子は言った。


「それにのぅ、わしから見れば、おぬしなどまだまだ生まれたての赤子も同然じゃ。わしを子供扱いするでない」

「えっ?」

「言うたであろう。わしは死神じゃ。この星の人間に『自死』という概念が誕生した頃には、既におったわい」


 誰がどう見たって、この子は小さな女の子だ。

 人間の、子供だ。

 俺の頭や目がおかしいのでなければ、だが。

 とすると、おかしいのは……

 耳か⁉


「おぬしの耳に異常などないぞ。ただ、理解力が著しく乏しいだけじゃ」


 そうか、耳が悪い訳じゃなくて、理解力が……

 ん?

 俺、もしかして今ものすごくバカにされてないか?


「馬鹿になどしておらぬ。そのままを言うたまでじゃ」


 少し遠くから声が聞こえた気がして見れば、女の子はいつの間にか陸橋の手摺の外側に腰をかけて、下を通る車の流れを見ていた。


「ちょっ、危ないって!」


 慌てて駆け寄ろうとする俺を制し、女の子は言った。


「言うたであろう。わしは死神じゃ。ここからなら、もう何度も落ちとるわい」

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