生える紙
トマトも柄
生える紙
そこに一つの町があった。
そこの町の中心には大きな大木があったのだ。
その木を祀るように中心に立っている。
その木には葉の代わりにある物が生えてくるのだ。
紙なのである。
その木は葉の代わりに紙が生えてくるのだ。
町の人はその紙を使い、色んなところに売り込んでこの町は成り立っているのである。
人々はこの木を救世主の木と呼んでおり、感謝されていた。
この紙で様々な書物に利用されて多岐に渡って親しまれている。
今日はその木に生えている紙の回収の日で、紙の回収でバタバタしている。
「今日の収穫も少なくなってしまったな」
一人の男が呟く。
年々この木から取れる紙の回収の比率が少なくなっていく。
町の収入は年々少なくなっていき、存続も難しいくらいの立ち位置に立たされていたのである。
「この町ももう終わりかしらね」
「最近では町同士での合併の話も出ているからね〜。 何でもこの街も吸収されるとか」
「これからどうなるのかしらねー」
女性の会話も聞こえてくる。
そして、町の人々も存続させようと努力していったが、収入の減少を抑えられず合併は止められなかった。
そして、合併の後に最初に命じられたのが木の撤去だったのだ。
町の人々は猛反論したが、勢いは止められず、撤去が決定してしまった。
町長は木との最後のお別れのために工事前日の夜に木の前に立っていた。
「この木ともお別れか……」
木の前で町長が呟く。
木の周りには撤去のための工事道具や重機が立ち並んでいる。
「明日、撤去のための工事が始まる。 今までありがとう。 この町が今まで発展できて維持できたのも君のおかげなんだよ。 明日からゆっくり休んでくれ」
町長はそう言い残し、木から去っていった。
木は何も答えなかった。
生えてる紙が風によって散り散りになっていき、周りに飛び散っている。
その落ちた紙が土を吸収しているという事実に誰も気付かなかった……。
工事当日、木の周りには多数の重機が動き回っている。
「おーい! 昨日雨でも降ったか?」
「いえ! 昨日は快晴で雨が降っていません!」
工事現場から大声での会話が聞こえる。
「何故か知らないが、地面がぬかるんでいるぞ! 足元に気を付けろよ!」
木の周りだけ地面が柔らかくなっており、足や重機で通るとくっきりと跡が残るほどであった。
「作業始めるぞー!」
掛け声とともに作業現場が動き出す。
すると突風が舞い上がった。
その突風によって木が揺れ、紙が舞い降りていく。
その紙が色んな所に落ちていき、作業員の悲鳴が鳴り響く。
「監督! 作業員の体が……体が!」
「どうしたぁ!」
監督は叫んだ方向を見る。
作業員が張り付いた紙を必死に振りほどいている。
振りほどいている作業員は顔を真っ青にしている。
作業員が紙を振りほどくと紙が重々しい音を立てて落ちていった。
紙に張り付かれた腕の部分がやせ細っている。
重機にも張り付いており、重機の塗装がどんどん剥がされていく。
紙を振りほどいた作業員が叫ぶ。
「この紙は人の何かを奪っているぞ! みんな触るな!」
だが大量の紙が降り注いでる今、どこにも逃げ場がない。
作業現場からは逃げるように指示する必死の声。
紙から逃げきれず、捕まる作業員。
紙から何かを吸収されて動けなくなる作業員。
監督含め、現場から離れる事ができた数人は現場を見直す。
「なんだよ……。 これ」
その木の周りは完全に地獄絵図の図になっていた。
作業員に張り付いている大量の紙、動けなくなった作業員、紙によって塗装が剥がれた状態の重機、全てが現実で起こりえない事が目に映っている。
「あの…あそこらへん動きがおかしくありません?」
作業員の指を指した方向に全員が確認するように見る。
その指差した先には、動けなくなった作業員と重機が複数ある場所である。
少しずつ……少しずつではあるが、紙に張り付かれている物が木に向かって進んでいるのである。
そして、木の傍まで近づき、まるでそれらを取り込むようにどんどん沈んでいった。
機械の軋む音が安全な場所に離れている人達の場所まで響いている。
まるで木が重機と作業員を食べているかのようであった。
「木が……全てを取り込んでいる」
木は取り込んだ後でどんどん成長しており、木の根の範囲も伸び始めていた。
町にまで範囲が及んでおり、皆が避難していくしかなかった。
町は木で埋め尽くされており、人を襲う木の根、成長する木、止まらない取り込み……。
永遠に繰り返されていた。
上空からは紙がふぶいている。
そして紙は木に向かって集まっていく。
木は集まった紙をどんどん吸収して吸収した紙を吐き出すようにして紙が散らばっていく。
退避していた人達がその散らばった紙を掴み、内容を見て顔を青ざめた。
紙に書かれた内容はこうだった。
『あなたの情報を取り込みたい』
人は怖がり、恐れをなして逃げ出していく。
だが紙を掴んだ時点でもう遅かった。
紙によって何かを吸収され、木に向かって引きずり込まれていく。
「助けてぇ! 助けてぇ!!」
叫びは響くが誰も助けれなかった。
町の人々はどんどん木に吸い込まれていき、全ての人々を取り込んでいった。
そしてその町には全ての物が木に吸い込まれ、とてつもない大樹のみがその場に残っていた。
風がふぶいていき、生えてる紙が散らばっていく。
落ちた紙にはこう書かれていた。
『情報の取り込み完了。 素敵な情報だったよ』
生える紙 トマトも柄 @lazily
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