最終話 端街の先へ

「それで、結局何の用なんだよ」


 俺は警戒するのが馬鹿馬鹿しくなって、カイに尋ねる。


 周囲のじいさんたちも、最近は中央街からの人間がうろつくようになったからか、身なりのいい若者を見ても驚かなくなっている。ましてや元老院議員がこんなところでカレーもどきを食っているなんて、とても想像できないのだろう。


「ん? 私を味方だと信用するにはまだ情報が足りないのではないか?」

「今更だろ。今の状況を見れば、潮目が変わったのはすぐに理解できる」


 なんせ今まで隔壁で完全に分かれていた「市民」と「使い捨て」だが、一般人はともかく建築・整備用DAZEの操縦者などは既にこの端街で様々な作業をしている。


 民衆はともかく、トップは本星への帰還を諦めて、この星で暮らしていく決心がついたのだと、それはよく分かっていた。


「信用できないのは変わらないが、信用していなくても問題ない。そういう訳だ」


 俺はそう言いながらカレーもどきを掻きこむ。ケイの分も食べているので、相変わらずなかなかの量である。


「ふん、ならば好都合だな」

「どういう事だ?」

「人類圏の拡大に貢献してもらおうと思ってな」


 カイの言葉に、俺は首をかしげる。


 人類圏の拡大……今まさにやっていることがそれではないのか? 砂と岩ばかりの惑星を「ノア」の機能で少しずつ領土を拡大していく。そういう方法で発展していくしか方法はない筈だが。


「これを見ろ」


 カイは言いながら、ホログラム端末を取り出す。そこには惑星の観測データが表示されていた。


「現在エルシルは砂と岩だけの惑星だと思われていたが、メインジェネレータと『ノア』本体の起動が為されたことにより、観測範囲がかなり大きくなった。そこで、データを参考に作成したのがこのマップだ」


 そこには広大な地形が広がっており、恐らく赤いランプがついている位置が「ノア」だろう。そして、南方に存在する物は――


「そうだ、この星には海がある。この大陸は非常に大きく。ユーラシアからパンゲア程度の広さがあることが考えられているが、どうやら『ノア』は墜落したのではなく、着陸に失敗したようだな」


 カイは満足げにそう語ると、ホログラムの大きさを操作して、一点を示す。その傍には赤い菱形の矢印が浮かんでいた。


「墜落地点から南へ七日から十五日で海へ出るはずだ。そこから西へ向かい。この星の植生と地形を調査してもらいたい」

「調査って言ってもな……」


 機材も無ければ、生きて帰れる見込みもない。さすがに自殺行為が過ぎるだろう。


「なに、別に一人でやれとは言わん。具体的には調査用の人員を乗せた航空機を降ろせるポイントを確保していく先行部隊として君を使いたい」


 どうやら、アルバートから俺の素性を聞いているのだろう。機械整備の知識があり、端街や「ノア」圏外での活動が多かった自分が、その役割をするのは妥当と言える。


「報酬は?」


 今までの生活や状況を考えれば、悪くない話である。そう考えた上で俺は自分自身の待遇について話をする。


「欲しいものがあれば用意しよう」

「そうかい。じゃあ了解だ。具体的な日程が決まったらアルバート経由で連絡をくれ」


 俺はそう言って、ジャンヌを連れてコンテナ食堂から出ることにする。


――バイル。まだ仕事は無くならないようですね。

「ま、便利屋だからな、何でもするさ」


 ケイの言葉に軽口を返しつつ、ちらりとジャンヌを見る。彼女はその翠瞳でまっすぐに俺を見返して、少しだけ口角を綻ばせた。どうやら少しずつ人間らしさと言うものが育ってきているらしい。


「さて、次の仕事場は端街の先(ビヨンド・ジ・エンド)……ってか?」


 ちょっと洒落た事を言って、俺は差すような日差しの中を歩いていく。


 数日続いた雨も今ではすっかり晴れ上がっており、息苦しくなるような熱気に満たされていた。










――あとがき



 お読みいただきありがとうございました。これにてビヨンド・ジ・エンド完結でございます。


 元々「書籍化したし、焦る必要も無いから人気とか考えないで自分の好きなもん且つ技術全部突っ込んだ奴を十万文字で書こうぜ!」という気持ちで書いていたので、満足です。

(まあこの満足が読者に伝わってるのかはわかりませんが)


 そして終わり方、この先は書こうと思えば全然書けるんですが、そうなると永遠に続けられるなーと思いますし、また別の面白さを提供できると思っていますが、まあ一つの作品として綺麗に終わるならここかな! みたいな感じで終えてみました。


 これで終わり!? 続き読みたい! とか面白かった! みたいな感想があれば、残していただけると幸いです。また、★やレビューなども、いただければとてもうれしく思います。まあカクヨムコンでも公募でも、商業に通用するようなら続きを考えましょうかね。

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ビヨンド・ジ・エンド 奥州寛 @itsuki1003

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