12 ビヨンド・ジ・エンド
第45話 答え合わせ
人生は、意外と何とかなるのかもしれない。
私はそう思わずにはいられなかった。
「本星――地球への帰還を夢見ていた人には悪いと思うが、仕方ない」
そう言ってアルバート氏は溜息を吐いた。
私室だとしても、盗聴の危険がある。だが、今となっては盗聴されようとも構わない情勢になっている。
あの夜、冷凍睡眠ユニットは完全に破壊され、瓦礫の山となった。当然混乱が起こり、本星への帰還計画は永久凍結となり、大きな混乱が起きている中で、私とアルバート氏は釈放される事となったのだ。
そのときは、冷凍睡眠ユニットの件もあり、元老院の大多数が癇癪を起こしたように騒いでいたが、騒いだところでどうにもならないのは、彼らも分かっているのだろう。現在は落ち着きを取り戻し、完全起動した「ノア」によってその混乱で破壊された様々なものを復旧させている。
現在、テラフォーミングの進捗はようやく横ばいから進展へと向かい始め、中央街以外でもマスクを外して走り回る事ができるようになるかもしれない。
「彼には感謝しないとな。ウィリアム君?」
「はい」
バイルは、よくやってくれた。現在ジルドレというELFの個体以外に管制権がないものの、おおむね希望通りの展開になっている。
「落ち着いたあたりで、食事の席でも儲けようと思うのだが、君もどうかね?」
「いえ、私は……遠慮させていただきます」
通信機越しに事務的な会話しかしてこなかった相手と、どのように話せというのか、間違いなく気まずい空気になると思った私は、アルバート氏の提案を丁重にお断りした。
――
「バイルさん、この料理はまた一歩カレーに近づきましたよ」
「そうか」
ばあさんの食堂で出されたカレーもどきを食べながら、ジャンヌは満足そうにしていた。
――正直、私にはよくわかりませんが、バイルはどうです?
「ん……そうだな、調整シーズニングがちょっと変わったか?」
調整シーズニングは、中央街から裏ルートを通して取引されるもので、ナトリウムやカルシウムなど、人間にとって必須となる栄養素を含んだ調味料である。
「あら、バイルちゃん正解よ。最近になって品質のいいシーズニングが流れてくるようになったの」
「へぇ」
ばあさんが嬉しそうに話すのを聞き流しつつ、俺は「まあ、メインジェネレータが動いたから、生産プラントも本格稼働を始めたんだろ」と心の中で考えた。
「ほう、なるほど、端街ではこのようなものが食べられておるのか。うむ、確かにそのELFが言う通り、カレーを思い出す味わいだな」
「マスター。あまり興奮してがっつき過ぎないようお願いします。お体に障りますので」
「……で、なんであんたらが居るんだよ」
カレーもどきを食べていると、隣に座っていた三人の男たちが舌鼓を打ち始めたので、思わず話しかけていた。
「なんでって――お前がさきに『信用できない』と言ったんだろうが、説明がまだ終わっとらんからな」
「それはありがたいが、今の状況のせいで聞きたいことが増えたぞ」
隣にいる三人組は、カイ、ジョー、ジルドレの三人だった。元老院議員がなぜこんな場所にいるのか、という疑問も当然浮かんでくるし、あの時アダムの攻撃を避ける術を失って死んだと思っていた二人が、当然のように元気に飯を食っている状況が訳が分からなかった。
「ほう……そうか、話題が多いのはありがたいな」
「まずは、なんでお前のELFには俺の細工が通用しなかった?」
これは、俺が一番最初に気になった事だった。偶然というには何か作為的なものを感じるし、事実ウィルから聞くかぎり、ジルドレとジャンヌ以外に、管理者権限を持っているELFは居なかった。
「それは私からお答えしましょう」
俺の質問に反応したのは、長髪のELFだった。
「ジャンヌ、貴女のナンバーは?」
「025です」
「私は024、貴女の一つ前に製造されたELFです」
つまり、俺が回収に行く前にカイはELFを回収していた。という事か。
俺が細工できるのはナンバー026以降のELFだけだ。だからジルドレには権限があって、他の奴には権限が無かったんだな。
「ELF製造ユニットを発見した我々は、情報を共有するより前、ジョーに回収を頼んで、それを成功させていた。という訳だな」
ジルドレの言葉を引き継いで、カイはそう話す。彼の話を受けて、大男はカレーもどきを食べながら深く頷いた。
「……」
思い返してみれば、確かにあの防衛機構は、既に一度迎撃した痕跡があった。当時はアルバートが二重に発注していたのかと思ったが、今思えば彼にそんなそぶりはなかった。気付こうとすれば気付けたという訳か。
――ところで、ジョーさんってDAZEと戦った時とイメージかなり違いますよね。
ケイがそんな事を言ってくるが、俺としては割とどうでもよかったりする。とにかく、次の質問に移ろう。
「あの時、アダムの攻撃で死んだんじゃないのか?」
「いや、普通に一度転移で逃がしてもらった後、ジルドレだけが残っただけだが」
「……」
そうだ、こいつらにはこの方法があった。俺は自分自身の短絡的思考と浅慮に頭が痛くなった。
「ははっ、我々が機能を託そうとした男が、まさかそんな事も思いつかないとは――っ!」
ジョーが口を滑らせたように話すが、慌てて自分の口を塞ぐ。
「ジョー! 貴様は余計な事を喋るなと何度言ったらわかるのだ!」
「も、申し訳――」
「黙れいっ!!」
カイに一喝され、ジョーはしょんぼりした様子で小さくなる。
――あ、分かりました。イメージが崩れるから喋るなって言われてるんですね。
どうもそうらしい。俺の後ろで、ジャンヌが笑いをこらえている気配がした。
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