第4話 パイロット
殲滅する為には敵の事を知らなければならない。
必死になって情報収集する中で、あろう事か俺は。
パイロットの魅力に取りつかれてしまったのだ。
パイロットになりたい。
その衝動に抗えなかった。
パイロットになるにはどうすればいいのか。
調べてみると、以下三つの方法があるらしい事が分かった。
航空大学校への進学。
大手航空会社に就職して自社養成パイロットになる。
それ以外の訓練を受けて免許を取得する。
贅沢を言えば、大手航空会社に就職してそこのパイロットになってバリバリと働いてみたかったが、年齢が年齢だ。
ここはすっぱり諦めて、自家用小型飛行機のパイロットを目指そう。
自家用操縦士技能証明を取得して、自家用小型飛行機はレンタルすればいい。
パイロットへの情熱が、喪愛の痛手を癒していった。
人生に彩が、希望が、実感が、力が湧いてきた。
人間として、男として活力が戻ってきて、結婚相手を探そうと思って、結婚相談所に行って、そして、彼女と出会い、交際を続けて、この神前挙式へと至ったのである。
この後、俺は彼女を乗せて、富士山上空を飛行する。
ああ、幸せでいっぱいだ。
ああ、この幸福を日本中のみんなに分け与えたいほどだ。
「………」
「………」
少女とパイロットの男性は顔を見合わせた。
男性と女性の幸福いっぱいの笑顔で映像は終わり、身体は自由を取り戻したのである。
黒紋付羽織袴はいつの間にか消えていて、パイロットの服装になっていた男性は、少女にフライトシミュレーター体験はいかがしますかと問いかけた。
「お疲れになったでしょう」
「ああ。はい。えっと、でもせっかくなので、お願いしてもいいでしょうか?」
「はい。では、少しだけ休憩をしてからにしましょうか?食堂がありますので、そこでお飲み物でもどうでしょうか?デザートもございますよ」
「あ。じゃあ。その前に、電話をしていいですか?」
「ええ」
その後、少女から連絡をもらった家族がこの施設に来て、一緒に食堂で昼食を取ってから、少女のシミュレーター体験の様子を見て、少女もその家族もにこやかに帰って行った。
「………一応、感謝すべき、なの、か?」
地元だと話したら少女の姉から観光案内してほしいと頼まれたのだ。
二人きりで。
「いやでももう、成仏していますように。幸福は十分に分け与えてもらったので」
パイロットの男性は合掌して、天国に行けますようにと祈った。
(2023.11.17)
衝動の黒紋付羽織袴 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます