038:赤熱する山の神


 こんな巨体でどこに隠れていたのか、山の上から現れた巨大モンスター。


 それは巨大な黒い岩が連なって大蛇のような姿を作っていた。


 大蛇と言っても、その岩の1つ1つが人間よりも何倍も大きいのだ。

 元の世界では絶対にお目にかかれないであろうサイズである。


「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 大蛇が大きく口を開け、無数の牙を見せつけるように吼える。

 同時に全身の岩が赤く熱を放った。


 その体はただ岩ではなく溶岩の体らしい。


 ――ユラ、ユラ。


「なるほど。山の神と呼ばれるワケだな」


 超高温の体温によって大蛇の周囲に蜃気楼が発生している。

 その姿が揺らめいて見えた。


 神秘的にも見える。

 だがとてもつもなく巨大で恐ろしいほどに狂暴。


 それが明らかな敵意を向けてくる。


 なのにタカシには恐怖心などなかった。


「すごい迫力だが……ドラゴンには劣るな」


 数日の間にタカシはもっと巨大なモンスターを見てきている。

 森でも、そして海でも。


 今さら山で巨大モンスターに出会った所で驚きもあまりないのだった。


「ダメです! 逃げてください!!」


 そんなタカシと、そしてタカシを信頼するヤマダに対してヴェルメリオは背筋が凍り付くほどの恐怖を感じていた。


「いくらプレイヤーさまでも、ゴーレムでは……っ!!」


 ヴェルメリオがこの世界の常識を知っているからだった。


 だがもう逃げる余裕もない。

 大蛇はタカシたちの目の前だった。


「ゴーレム、やれ」


「ゴー!!」


 タカシの指示に「まってました!」とばかりにゴーレムが動き出す。


 戦いは一瞬だった。


「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 無数の牙を光らせて噛みつこうとする大蛇。

 蜃気楼のせいなのか、残像が見えるほどの素早い動きだった。


 大蛇はその巨体を感じさせないほどに素早い。

 だが巨体でありながら素早いのはタカシのゴーレムも同じである。


 ゴーレムは大蛇のその首根っこを的確に掴み、そして地面に叩きつけた。


「ゴー!!」


 ――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


 地面を揺らす轟音の中で確かに聞こえたのは岩を粉砕する音だ。


 ――バキン!!


 大蛇の首が直角に曲がる。


 ――ズズゥン……。


 巨大な身体が地面に横たわると、赤熱してた体が光を失った。


 森には元の静けさが戻ってくる。


「よくやった」


「ゴー!」


 悲鳴すらないあっけない決着だった。

 大蛇はもう動かない。


「終わったぞ」


「……………………っ!?!?!?!?」


 タカシが振り返ると、それを見て口をパクパクさせているヴェルメリオがいた。


 アゴが外れそうなくらいに口が開いているし、大きな目だって今にも飛び出してしまいそうなくらいに見開かれている。


「ね? 言ったでしょ、先輩のゴーレムはすっごく強いんです。お疲れ様です、先輩」


 そんなヴェルメリオを抱きしめるヤマダは余裕の表情でニコニコ笑っていた。


「どうやら神と言ってもしょせんはモンスターってことみたいだな」


 結果だけ見れば楽勝だったが、実はタカシは少し不安も抱えていた。


 水である。


 タカシが知る限りでゴーレムの唯一の弱点が水だ。

 それを見抜かれていたら危なかった。


 ここには滝も、大きな池もあるのだ。


 神と言われるくらいだから高度な知性を持っている可能性もあったが、余計な心配だったらしい。


「とにかく地上で決着をつけられて良かったよ」


 逆に言えば水以外には負ける要素がないと思ってもいたのである。


 タカシのゴーレムは巨大なだけじゃない。

 パワーも、そしてスピードも、反応すらも化け物なみなのだ。


 ドラゴンすらワンパンするほどなのだから、今更すこし大きな蛇くらいで怖がる必要はなかったのだった。


(そういえばドラゴンの時にあった通知もなかったな。本当にただのモンスターだったのか)


「ゴーレム、まだ他にもいるかも知れないから警戒たのむぞ」


「ゴー」


 タカシは念のためゴーレムに警備の指示を出した。

 あれが普通のモンスターなら他にも同じようなモンスターがいるかも知れない。


「あ、ありがとうございます! 助けていただいて……」


「気にするな。そもそも俺たちは君を助けに来たんだから、当たり前の事をしただけだ。それに……」


 わざわざ駆け寄ってきて頭を下げたヴェルメリオに、タカシはその髪をポンと撫でて答えた。


「子供を守るのは大人の役目だからな」


「あっ……」


 ヴェルメリオが頬を染める。

 ヤマダは敏感に危険を察知した。


「むむっ……!?」


 乙女のカンである。


(き、危険です!! この子は私の脅威になる可能性、大です!! 異世界まで来て恋のライバル登場ですか!?)


「せ、先輩、ダメですよ! レディの髪は大切なモノなんですから、気軽に触ってはいけませんよ?」


 と、さりげなくヤマダはタカシをたしなめる。

 本当は自分も撫でられたかったのだが、うまい口実が思いつかなかったのである。


「おっと、つい……ヴェルメリオさん、悪かった。ごめんなさい」


「えっ!? い、イヤじゃないですっ! わたしは、イヤじゃなかったです……」


「そ、そうなのか?」


「は、はいっ! ぜんぜん、というか、嬉しいというか……ごにょにょ」


「よかった。じゃあヤマダさんにはしないように気をつけるね」


「ふぇ!? い、いいえ! 私もイヤじゃないですけど!? というか私も撫でてください!!」


「えっ!?」


「わ、わたしも……タナカさんになでて欲しいかもしれませんっ」


「えぇっ!?」


 その後、なぜかヤマダとヴェルメリオを両脇で撫でながら食事をとることになるタカシなのだった。

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なんか土食ってたら世界最強になってたんだが???? ~異世界転生した元社畜だけど不遇のゴーレム使いが実は最強だったので超絶ホワイトスローライフを目指します。ついでにブラック組織は全部まとめてぶっ壊す~ ライキリト⚡ @raikirito

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