037:世界一のハズレクラス
「ゴーレム使いについてはわたしも詳しくなくて……」
「先輩、世の中には知らない方が幸せってこともあると思いません?」
良い淀むヴェルメリオにヤマダが助け船を出す。
その哀れむような眼でタカシはなんとなく察した。
「もしかして評価低い?」
「そうですね。なんと言いますか……とても人気がありません」
最終的にヴェルメリオはズバっと言い切った。
「そ、そうなのか」
2人の様子からそんな気はしていたが改めて言われるとショックだった。
「わたしたちもプレイヤーさまと同じくクラスを持ちます。ですがこの世界にきた瞬間にクラスを定められるプレイヤーさまたちと違ってわたしたちにはある程度の選択権があるのです」
「いいなー。私も自由に選びたかったですよ」
ヤマダはヴェルメリオの話に耳を傾けながらも、テキパキと村から持ってきた食料を用意する。
ミソギのために最低限の食事しかしていないヴェルメリオのために村長が持たせてくれたモノだ。
「それがそこまで自由でもないんですよ」
ヴェルメリオは小さく苦笑した。
「10歳になると教会で適性を判定してもらい、その中から選びます。例えば剣士と騎士、赤魔術師と青魔術師……もっとたくさんの選択肢がある人もいます。それがこの世界のクラスのシステムです」
「そういえば大きな街には必ず教会があるらしいですね。私も見たことありますけど、大きくて真っ白で目立ってました。あ、先輩。調理台の代わりに綺麗なブロックを1つお願いします」
「はい、クリエイト・ブロック。このくらいの高さで良いか?」
「はい、ありがとうございます。ぴったりです」
タカシはヤマダの体格に合わせてローテーブルくらいの分厚さでブロックを作成する。
イス代わりに使っているブロックとちょうど良くなるように調整している。
「フンフンフ~ン♪」
「あの、ヤマダさま……その台、大丈夫ですか?」
上機嫌で調理を続けるヤマダにヴェルメリオは心配そうな視線を向けていた。
「ん? 先輩のブロックすっごく硬いから大丈夫だよ!」
「いえ、硬度ではなくて……途中で土に戻ってしまうのでは?」
「え? 先輩、そうなんですか?」
「いや、しばらくは消えないから心配しなくて良いと思うぞ?」
「だってよ、ヴェルメリオちゃん」
「……タナカさま、このイスもですか?」
「そうだけど……どうかしたか?」
「い、いえ……やはりプレイヤーさまのスキルはわたしたちの魔術とは別物のようです」
「そうなのか?」
「えぇ。ゴーレム使いは不人気クラスなんですけど、もちろん理由があります。ゴーレムを作って操る魔術がとても使いにくいからなんです」
ヴェルメリオはタカシのゴーレムに視線を向けた。
ゴーレムは元気に周囲の警備を行っている。
「ゴーレムの生成、操作、維持には他の魔術以上に膨大な魔力と集中力を必要とするんです」
「へぇー」
初耳だった。
クリエイト・ゴーレムのMPの消費は1だ。
どう考えても多くない。
しかも維持のために集中するどころか、タカシはゴーレムに警備を任せて自分は寝たりしていた。
今もタカシはゴーレムを完全に放置してヤマダの料理の手伝いをしているくらいだ。
「そのためゴーレムを作って操れる時間は一流のゴーレム使いでも10秒未満だと言われています。しかもその力も人間の子供レベルだとか」
「えぇ……一流でもそんなレベルなのか? それは、よほどこの世界では活躍していないんだろうな」
「そうですね。歴史的にもまともに活躍した記録はありませんし、今ではゴーレム使いがハズレクラスだと知らなかった不幸な人しか選ばないクラスだと言われています。むしろ教会ではハズレクラスを選ぶ人を減らすため、ハズレクラスのリストを作ってるくらいです。そのブラッククラスリストのトップページに乗っているのがゴーレム使いなんです」
「それって、1番ハズレ……ってこと?」
「そうです」
「マジかよ……」
予想以上にヒドい扱いである。
ヴェルメリオがタカシの質問に答えたがらなかったワケである。
「で、でもこの世界のゴーレム使いの話ですよ? 先輩のゴーレムは……」
ヤマダがタカシを励まそうとした時だった。
――ズズズズン……!
山が揺れた。
「きゃあ!?」
「ヴェルメリオちゃん!」
ヤマダがとっさにヴェルメリオを抱き寄せる。
タカシは冷静に周囲に視線を投げた。
「……上か!!」
山の上から影が落ちて来た。
――ゴゴゴゴゴゴゴ!!
まるで大きな岩が雪崩のように転がり落ちてくる。
そう見えたが、それは岩ではなかった。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
巨大なモンスター。
岩のような鱗をもつ蛇だったのだ。
「まさか、これが山の神……!?」
ヴェルメリオが恐怖で顔を引きつらせる。
だが、逃げようとはしなかった。
「プレイヤーさま、逃げてください! 生贄になるのはわたしだけで……」
自分が生贄になることでタカシたちを逃がそうとしたのだ。
「ううん、そんなことできるワケない。だってヴェルメリオちゃんはもう生贄じゃないんだから」
「で、ですが……!!」
「大丈夫」
ヤマダは子供をあやすように優しくヴェルメリオの髪を撫でる。
「だって、先輩のゴーレムはとっても強いので!」
そんな2人を守るようにタカシはモンスターの前に立ちはだかる。
「ゴー!!」
すでに臨戦態勢のゴーレムが巨大化しながらタカシのもとへと駆けつけていた。
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