036:ヴェルメリオ(生贄の美少女)


 そこにいたのは生まれたままの姿で水浴びをしているヴェルメリオだった。


「だ、だれ…………っ!?」


 ヴェルメリオは恥部を隠すように身構えた。


 火山が噴火する前からこの森にいたヴェルメリオは村の状況を知らない。

 タカシたちの事も何も知らないままだった。


 いきなり現れた知らない人間を警戒しないワケがないのである。


「あ、怪しい者じゃないですよ! 私たちはあなたを助けに来ました!」


「む、むぐぐ……!」


「きゃあん!? ちょ、先輩、ダメですよっ……もう!!」


「ぷはっ! 窒息するかと思った……」


 ヤマダの谷間に顔をうずめていたタカシはなんとか窒息死する前に解放してもらえた。


「そ、それはごめんなさい。つい力が入ってしまって……とにかく先輩は後ろ向いててくださいっ!」


「わかった。説明はまかせる」


「まかされました!」


 同性であり年齢も近いヤマダが状況説明をする。


「私はヤマダと言います。この男の人はタナカ先輩です。私たちはスーベル村のアフマル村長さんに頼まれてヴェルメリオちゃんを助けにきました!」


「え? 私を助けに……?」


 父親の名前が出たからか、ヴェルメリオの警戒が和らいだ。


「そうです! 生贄の代わりになる大きな供物が手に入ったのでヴェルメリオちゃんはもう生贄になる必要はないんですよ!」


「ほ、本当ですか……?」


「ほら、これです! でっかいでしょう?」


 ヤマダがゴーレムが抱える鬼の頭を指さす。

 生首にはとっくに慣れてしまっていた。


「え!? なんですか、それ!?」


 ヴェルメリオは鬼を知らないのだ。

 村がオオタに支配された時、すでにヴェルメリオは村を出て山に向かっていたのである。


「えーと、鬼?」


「オ、オニ……ですか?」


「そう、とにかくちょうどいい供物なんだよ。だからもうヴェルメリオちゃんは安心してね」


「そうなんですね……良かった」


 そう言うと水辺に座り込んでしまった。


「ヴェルメリオちゃん!? 大丈夫ですか!?」


「あ、あはは……なんだか力が抜けちゃいました。もう、死んじゃうんだと思ってたから……」


 ずっと死を覚悟していた恐怖と緊張感から解放され、腰が抜けたのだ。


「大丈夫。もう大丈夫ですから」


 ヤマダは自分が濡れるのも構わず、そんなヴェルメリオを抱きかかえて池の外まで運んだ。


 ステータスで言ってしまうと「筋力:02」というかなり低い数字になるヤマダだが、それはプレイヤーとして比較した時の話だ。

 そんなほぼ筋力が初期値のヤマダですらこの世界の住人に比べると遥かにパワフルなのである。


「レッド・スパーク!」


 ヤマダは慣れた手つきで焚火を作り、ヴェルメリオにローブをかけてあげた。

 こんな時にはヤマダのレッド・スパークが役に立つ。


 おかげでやっとタカシもヴェルメリオと向き合う事を許された。


 改めて見たヴェルメリオはやはり美しかった。

 この世界の住人は全体的に美形が多いと感じているタカシだったが、ヴェルメリオは別格の美しさだった。


 どちらかと言うと「かわいい」と感じるヤマダとはまた違うタイプで、幼くしてすでに「美人」と思ってしまうほどに整っている。


 清らかな水のように青い髪は長くなめらかで、大きく潤んだエメラルドグリーンの瞳は宝石のように煌めいている。

 小さく通った鼻と、薄めだがしっかりと存在感のある唇のバランスは奇跡的だ。


 全てのパーツが完璧に配置されているかのような感覚で、それは美しすぎて異質であると感じてしまうほどだった。


 透き通るように綺麗で白い肌には傷も汚れなく、まるで良くできた人形のようにも思える。


「改めてこんな山の中にまで迎えに来ていただいてありがとうございます。わたしはスーベル村のヴェルメリオと言います」


「あ、タナカです。ご丁寧にどうも」


「あ、私はヤマダです。よろしくお願いします」


 ついつい名刺を探しそうになる2人は簡単に自己紹介をして、自分がプレイヤーであることを伝えた。


「すごい、スキルなんて初めて見ました。本当にプレイヤーさまなのですね」


 ヴェルメリオがヤマダのスキルに本心から驚いて小さく拍手を送ると、ヤマダは恥ずかしい気持ちになった。


「あ、あはは……私なんてザコですけど」


「そんなことないですよ。プレイヤーさま、ご存じですか? この世界には魔術というモノがあります」


「そうなのか?」


「えぇ、私は街で見ましたね。三角帽子で、いかにも魔法使いって感じの恰好してましたよ?」


「魔術師の伝統衣装ですね。その魔術師がヤマダさまのように小さな火を起こす魔術を習得するのには10年かかると言われています。それに覚えたての魔術師は1日に1度、その魔術を実行するのが精いっぱいなほど魔力を消耗してしまうのです」


「うわぁ、そう言われると……私ってすごいかも知れませんね!」


 ヤマダはいつの間にかスキルとして使えるようになっていたし、MPが尽きなければいくらでも連発できる。

 そのMPだって初期値は30だった。

 ヤマダは少なくともそんな魔術師たちの魔術を30連発はできることになる。


 そう考えるとかなり天才的に思えた。


「そうです。それに火を操る赤魔術師は人気のクラスでもあります。最初はたいへんですけど、極めた赤魔術師は他の魔術師たちにも尊敬される存在です」


「へぇ、ゴーレム使いはどうなんだ?」


 タカシは自分のクラスが気になった。


「え、えーと……この世界にもゴーレム使いはいますけど…………なんというか……」


 するとヴェルメリオは言いにくそうに頬をかいて口ごもった。


 タカシはなんだか悪い予感がした。

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