第五話 トアの城で薔薇茶を。ラピスが作った薔薇の砂糖漬けと、干した果物入りのクッキーも。

 トアから数歩離れて呼吸を整えたラピスは、少し考えてから口を開く。


「ねえ、何を持って行けばいいか分からないの。一度、お城のお部屋が見てみたいのだけど」


「いいぞ。部屋を綺麗にしてくるから待ってろ」


 トアはそう言った後、姿を消した。


 ラピスは急いで青いワンピースに着替える。

 しばらくして、トアが戻ってきた。


「猫にならないの?」


 ラピスが尋ねると、トアは「何故?」って、不思議そうな顔をする。


「ずっと猫だったのに……」

「この姿は嫌か?」

「嫌いじゃないけど……恥ずかしい」

「そのうち慣れる。着替えたのか?」

「知らない方がいたら恥ずかしいもの」

「そうか。行くぞ」


 トアの力によって、ラピスは彼と共に一瞬で城に移動する。


「あっ、灯り」


 あちらこちらに置かれている魔石ランプに気づき、「忘れていたわ」とラピスは呟く。

 それからラピスはトアに視線を向けた。


「ねえ、トアは夜目が利くのに、どうしてランプがあるの?」

「美しいから集めていたのだ。城に戻った後、お前には灯りが必要だと思い出してな。部屋にもあるぞ」

「よかった」


 ラピスはふわりと微笑んだ。


 魔石ランプは、赤い絨毯じゅうたんが敷かれた広い廊下を照らしている。

 ラピスはその幻想的な美しさに感動した。


 浮かれた気分でラピスは天井を見上げる。高い。

 壁には、風景画やタペストリーが掛けられている。緑色のカーテンがある辺りに、窓があるのだろう。


 トアが「行くぞ」と言い、ゆっくりと歩き出したので、ラピスは彼に続いた。

 やがてトアが大きな扉の前で足を止めたので、ラピスも歩みを止める。


「この部屋だ。隣の寝室と繋がってる。その隣が俺の寝室だ」

「えっ? 寝室?」

「嫌か?」


 首を傾げるトアを見て、ラピスはドギマギしながら、「だっ、大丈夫よっ」と答える。

 トアが大きな扉を開けて、「入れ」と言うので、ラピスは緊張しながら部屋に入った。


 明るい。ラピスは幾つかの魔石ランプに視線を向ける。

 広い部屋。緑色のカーテンと青い絨毯。


 上品な家具を見て、ラピスは「素敵」と呟いた。


「気に入ったか?」

「ええ。寝室も見たいわ」

「いいぞ」


 フッと笑ったトアが扉を開けて、寝室を見せてくれた。


「寝台も素敵ね。家具はこれで十分だから、お気に入りの服と装身具そうしんぐと、本を屋敷から持ってくることにするわ。あとは花の種とか、お菓子作りや庭仕事で使う道具も持ってきたいわね。あっ! トアにあげようと思って、干した果物入りのクッキーと、薔薇バラの砂糖漬けを用意してるの」


「後で一緒に食べるか」


「いいの?」


「ああ。裏庭の木も運んでやるぞ」


「うーん、私の都合で環境が変わるのは可哀想だわ。こちらの土で丈夫に育つか分からないし」


「そうか。そうだな。じゃあ、行くか」


 トアと共にラピスは自分の部屋に戻り、荷物をまとめて、二人で城に移動する。


 ラピスに与えられた部屋でトアは、茶色い髪と瞳を持ったメイドを紹介してくれた。

 可愛らしい少女の姿をしているが、栗鼠リスの魔物で、名前はミミというらしい。


 ミミが薔薇茶の用意をしてくれたので、ラピスはトアと一緒に長椅子に座り、薔薇の砂糖漬けを食べた後、お茶とクッキーを頂いた。


 自分が作った薔薇の砂糖漬けとクッキーは、作った時も食べたのだけど、二人で食べた方が美味しいなとラピスは思う。


 クッキーを食べたトアが「美味いな」と言って笑いかけてくれたので、ラピスはニコニコしながら「嬉しい」と、自分の気持ちを伝えた。


 すると、甘くとろけるような笑みを浮かべたトアが「好きだ」と囁き、ラピスの髪を優しく撫でる。


「私も、好き」


 ラピスが恥ずかしさを感じながらそう言うと、トアの顔が近づいて、甘い甘いキスをした。


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女嫌いで有名な伯爵との結婚が決まった人形令嬢と呼ばれている伯爵家の次女ラピスは、薔薇とお菓子を好む魔の森の王に求婚される。 桜庭ミオ @sakuranoiro

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