第四話 トアに求婚されたラピスは、彼が美形の男になれるなんて知らなかった。
ラピスは驚き、高鳴る胸を手で押さえ、深呼吸をした。
トアは真剣な表情で話を続ける。
「城に来るか? 使ってない広い部屋ならたくさんあるぞ。掃除は俺なら一瞬で綺麗にできるから問題はない。俺の城にも
ラピスは戸惑い、何も言えないでいた。
トアが優しいのは分かってる。
だけど猫だ。彼の気持ちは嬉しいけど……猫なのだ。
トアのことは好き。
彼の力のおかげで、トアが近くにいる時は、ラピスが大きな声を出したり号泣しても、屋敷の者に知られることはない。
他人の目を気にせずに泣きわめき、思いのままの言葉を発することができた。
嵐の夜に一人で怯えた時や、寒さの中、孤独を感じた夜に、トアが姿を見せると安心した。彼の
猫だからなのか体温が高く、とても柔らかな体で、彼に触れる時間は
トアは気配に敏感なので、屋敷の者に気づかれたことはない。
それと不思議なことに侍女達は、トアが残した抜け毛を見ても、驚くこともなく掃除をしている。
「魔物の嫁は嫌か?」
「トアのことを嫌だと思ったことはないのだけれど……猫と結婚するとか、考えたこともなくて……」
「人にもなれる」
「――えっ?」
そう言って、トアは瞬く間に、猫から背の高い男へと
柔らかそうな黒髪に、
ラピスはドキドキが止まらない。驚き過ぎて声が出ない。
「どうだ? 人になったぞ。森にはたくさん魔石があるからな。売れば金になるし、欲しい物があれば買ってやる。お前はお前らしく、好きなことをしたらいいんだ。この姿でもダメか?」
悲しげな顔のトアを見たラピスは切なくなり、両手をぎゅっと握りしめる。
「……ダメってことはないの。トアは素敵よ。猫の時もだけど、今の姿も。慣れてないから緊張するけど、トアがダメってことはないの。
「俺のことが好きなら俺の城に来たらいいし、嫌いなら断ればいい。俺は好きだぞ。ラピスのこと」
「……私の、匂いが好きなのよね?」
尋ねると、トアがくつりと笑う。
「そうだな。匂いも好きだ。でもな、それだけじゃない。お前が泣いても笑っても、怒ったとしても、俺がラピスを愛していることは変わらない。お前が老いても、俺の気持ちは変わらない。軽い気持ちで求婚してるわけじゃないからな」
「いいのかしら? 逃げても。トアのところに行っても……」
そう口にしたら、身体が震えて涙が出た。
「ああ」
トアが頷き、静かに近づいてくる。そして大きな手で、ラピスの涙を拭った。
彼の匂いと温もりを感じて、ラピスは号泣する。
ラピスが泣き止むまでの間、トアは黙ってそばにいた。
泣き止んだラピスが顔を上げると、トアが優しく頭を撫でてくれる。
とてもとても幸せで、ラピスはまた泣きたくなった。
そんなラピスの頭と鼻と唇に、トアはそっとキスをする。
ラピスは胸がいっぱいで、トアにぎゅっと抱きついた。
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