土管

藍田レプン

土管

 私の幼少時の体験である。

 未成熟な脳というものは、現実と虚構、想像や夢、幻といったものを正しく判断していないことも多いだろうし、これもまた私の脳が創り出したまがいものなのだろうけれど、今でも生々しくその質感や光景が、記憶として存在している。

 その時の私は三輪車に乗っていたから、おそらく幼稚園に通っていた頃のことだと思う。私の家の前には車道を挟んで、まっすぐ伸びる路地があった。あたりには大きな柿の木が何本も植えられ、深い緑の影を落とす路地の左右には古い石垣があり、その右と左の石垣には、どちらにも土管が横向きで埋められていた。

 おそらく大雨の時に排水の役割を果たしていたのかもしれないその二つの土管は、石垣の壁面に沿うような形で、二つの黒い大穴を向かい合って開けていた。

 そう、普段はそこには土管があった。

 土管しかなかったはずなのだが。

 私が三輪車に乗って、その路地を通ろうとした時、右の土管と左の土管を繋ぐように、白く太く、長いものが道路に横たわっていた。

 それは白い蛇の胴体だった。

 怖くはなかったが、こんなに大きな蛇がいるのか、と驚いた。

 それは蝸牛のような鈍さでじわじわと移動しているように見え、巨大な蛇体に並んだ白鱗が、柿の木の作る木漏れ日の下で蠢いている。

 いつかは移動し終えて道が通れるようになるだろうと、のんびりと待っていたが、一向に頭も尾も見える気配が無く、仕方ないので私は三輪車に乗って家に引き返した。

 幼い頃に一度きり行き逢った、ただそれだけの話である。


 今はその路地は綺麗に整地され、石垣も柿の木も無くなってしまった。

 あの蛇は元気だろうか。

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土管 藍田レプン @aida_repun

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