第3話 リンド


 リンドという女性がいる。

 リンドは森の奥にぽつんと家を構えて住んでいた。

 リンドは妙齢にも見えるし、まだうら若い少女のようにも見える不思議な女性だ。

 長い黒髪をいつもひとまとめにしていて、丸い眼鏡をかけている。

 身体は痩躯で、手足が針金細工のように細く長い。

 蜘蛛のような身体をしているリンドは、たいそうお茶を気に入って飲んでいた。

 色々なお茶がリンドの家にはある。

 紅茶、緑茶、烏龍茶、ルイボスティーに黒豆茶。

 しかしリンドの一番のお気に入りは、大麻を使ったお茶だった。

 大麻をよく乾燥させて綺麗に細切れにしてお茶にする。

 リンドはそのお茶を飲む時間をたいそう好んでいた。

 リンドにはいつも世の中がセピア調に見える。

 リンドはそのことにたいへん悩んでいて、参っていた。

 明るい世界で踊るような生活をしてみたいと思って仕方がなかったのだ。

 リンドは大麻を栽培する叔父から大麻畑をひとつもらっていて、そこで大麻を大切に育てていたが、最近リンドの家には訪問者が多い。


 なんせリンドの大麻畑はひとつといってもとても大きいものなのだ。

 噂を聞きつけた人々はリンドの家の辺りを回り、リンドの淹れる大麻茶の香りに脳みそをやられてしまって、もうメチャクチャだ。

 屍のようにリンドの家の周りではいつも若者から草臥れた老人までもが思い思いに横になり、リンドの淹れる大麻茶の香りを嗅いで過ごしている。


 リンドは特別神経質な性格ではなかったので、家の周りに誰かが寝転んでいても何も言わない。

 リンドは窓からいつも、叔父からもらった大麻畑を眺めて過ごしている。

 外には殆ど出ない。

 リンドの育てている大麻は特別だった。

 普通に乾燥させても大麻としての作用はない。

 リンドが手をつけた大麻だけ、魔法のように作用が宿るのだ。

 そのためリンドは一方で魔女とも言われていたが、杖も持たないし箒にも乗らない。

 使い魔はいないし、いつもパンツスタイルだ。


 ある日、珍しくリンドは家の外へ出た。

 リンドの玄関から一番近い所へ寝転んでいた、もう擦り切れたような老人が、リンドに引きずられるようにしてリンドの家の中へ連れていかれる。


 ガチャ、とドアノブが閉まる音がしたが、リンドの家の周りの人間はもう脳みそをやられているので気にも止めない。


 そうして、しばらく大きな何かを切ったり削ったりする音が三日ほど続いて、四日目に、リンドの家の大麻畑のすぐそばに、大きな人皮が干されていた。


 リンドは人皮を干すのがうまい。

 リンドは言う。


 「大麻茶を作る上で大切なのは、大麻茶の香りによく馴染んで、乾燥しやすい人皮なのだよ。それを細かく刻んで大麻茶の中に混ぜ込むと、私にしか作れない大麻茶が完成するんだ」


 その格別な大麻茶の味は、一生涯をかけて、リンドにしか知られることはない。


 


 

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