復興進む河川敷にて君と語らう

赤城其

 雲がゆっくりと動いている。


 ただ一つ水平線に沿って流れていくはぐれ者を、俺は河川敷に座ってコーヒーを片手に眺めていた。


「あの雲がどうしたの?」

「別に。なんとなく見てただけだ」

「もしかして、自分と重ねちゃったとか?」

「……」


 鈴が鳴るような声。聞き慣れた声に、振り向くこともなく素っ気なく答えると呆れ笑いが聞こえた。


「あの雲はね、もともと二つだったんだよ。知ってた?」

「そうなのか。それは知らなかったな」

「ずっと離れ離れだったのに、急に惹かれあうようにしてくっついたの。ね、まるで私たちみたい」

「そうか?」

「君ってやつは……相変わらずだね」

「悪かったな情緒がなくて」


 そう言うお前だって、昔から、十二年前のあの時から全然変わってないじゃないか。

 俺を見てみろ。もうすっかりくたびれた白髪混じりのおじさんだ。


「変わらないよ。姿がどんなに変わったって君は君だもん」

「そうか」

「さてと、もう行かなきゃ」

「行くのか」

「うん。君の顔も見れたし……それにもういいかなって」


 季節外れの暖かい風が復興が少しずつ進んでいる街並みを抜けて無精髭を撫でていく。


「良い人見つかったんでしょ。せっかくの男前なんだからいい加減そのヒゲ剃りなよ」

「分かってる」

「彼女さんは絶対に幸せにすること、分かった?」

「誓って幸せにする……あのな、もし次があったら────」

「────明日は明日の風が吹くってね。その話は君がこっちに来た時にでも聞いてあげるよ」

「……そうだな。引き止めて悪かった」

「じゃあね、バイバイ」

「ああまたな」


 別れを告げると、俺を包んでいた風は傍らに置いていた白菊の花びらを巻き上げて、山と海に囲まれた青空へと昇っていった。


 俺はそれを見送ると、慣れた手つきで懐から煙草を取り出して火をつけた。

 紫煙が後を追うように風に巻き上げられていく。


 十二年前のこの日この場所で、彼女は俺の前からいなくなってしまった。もしかしたら、今でも外海そとうみのどこかを漂っているかもしれない。

 だが、彼女は確かにここにいた。俺が持ち直すまでここにいてくれた。


 未練が産んだ産物かもしれない。だけど、そのおかげで俺は今を生きている。

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復興進む河川敷にて君と語らう 赤城其 @ruki_akagi8239

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