舞台は「舞台」の裏側。客席からは見えないものを魅せてくれる怪異ミステリ

始まった舞台稽古。しかし、派閥に分かれた人間関係、現れる怪異……その他のトラブルにも次々見舞われ、現場には常に「この舞台の幕は本当に上がるのか?」という恐怖がつきまとう。
そんな不安定な状況の中でも、公演に向けてひたすら準備を進めていく演出家や出演者たち。
夢が花咲く舞台だけでなく、それを支える暗く冷たい土壌や根、養分までもを丹念に描いた、舞台裏に密着できる作品です。

こちらの作品でまず魅力的に感じたのは、お仕事小説としての側面です。観る側である人間には、舞台が出来上がるまでにどのような過程を経るのか、また、舞台を作り上げている人間たちの人柄や抱えている思いといったものは見えません。
華やかな舞台の裏にあるのは、スタッフたちの大変さ、熱意、努力といった現実、そして、決して良いものばかりではない事情や関係性です。

関係性というのも、この作品の魅力であると思います。登場人物一人一人が主役をはれるほどに良い意味で癖があり、さらにその間で正負様々な関係が育まれます。
この「関係性」は、関係性という言葉をこえたところでも、物語に深く関わっていると思いました。

リアリティー溢れる舞台制作や人間描写だけでなく、暗がりで蠢く怪異が絡んでくるのもこちらの作品の魅力です。物語が進めば進むほどにその闇と存在感は増し、様々な要素と繋がり始めます。

仄めかし・人間の内面や素質等も含めた「見えない」ものが繊細に絡み合い、現実的な、そして非現実的な不安と不穏が物語には常に寄り添います。
その空気感の中には気づけば自分もいて、まるで現場の一関係者かのような視点で、行く末や人間関係を案じ、見守っていました。

どろりとした要素を多く挙げましたが、そうでない要素ももちろんあります。最高にカッコ良かったし、グッときた!
特にキャラたちの関係性や台詞には何度も撃ち抜かれました。

目を引く事件から、キャラたちの些細な仕草まで、全てを見逃せません。
文字をいくら連ねても伝えきれない数々の魅力や空気感を、ぜひ実際に味わってみてください。

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