第二十八話 監獄へいこう
そして国王祭当日。この領地に来て数日が経ち、ようやくここ一帯の土地にも慣れてきたところだ。
けどまだ、俺は森林の中で寝ることには慣れておらず、よく木から落ちそうになることもあった。
今、俺は高台の上で如月たちを監獄から救出するべく、国王祭を始めようとわちゃわちゃしながら準備をしている様子を遠目でそっと見ていた。
「国王祭は賑やかでいいな。しかし、色んなことをしてきたけど、今日のクーデターは成功するのかな」
「成功しなくとも最初の目的はただ、小嶋の元仲間たちを倒すために来たわけですので、それさえ果たせば帰ることができますわ」
その俺が漏らした独り言を聞いたシリエルは冷静に反応をする。
成り行きでイザベルのクーデターを手伝うことになってしまったが、言われてみれば俺たちの最初の目的は如月の復讐を手伝うためにここへ来たのだったな。
「元仲間?なになに?仲違いでもしたの?」
サンゲーノが不思議そうにこちらの話に加わる。
「いや、仲違いじゃなくて一時的な仲間だ。例えるなら偶然同じ任務で一緒になったみたいな感じだ。まあその期間が長くて俺は便宜上元仲間と呼んでるんだ」
仕方ないという感じで俺は手を広げてため息をつく。
「ならどうしてそんな興味もなさそうな相手を倒したりとかするの?」
「それは仲間になったある一人の依頼を受けて倒そうと決めたんだ。まあ倒す度合いがどこまでなのか、俺は当人じゃないのでよく分かってないが、悪役だから最悪殺すことも有り得るかもな」
「最悪殺すって言い方はだめだよ!悪役に向いて無さすぎると思うんだ!最低でも殺すって言わないとダメだよ」
サンゲーノは俺の手の間に入り、そのまま俺へと抱きついてきた。
「ちょお前、いきなり抱きつくなよ」
「ええ?そんな大きく手を広げて抱きついて欲しいのかと思ったよ」
彼女はわざとらしい顔で俺に抱きついた。いや、それはどう考えても違うだろ。とも思いながらサンゲーノに抱きつかれたまま話を進めた。
そういえばこの世界の魔族はエルフと似たような長命種らしく、一見二十歳に見える子でも実は百歳だったりすることもあるそうだ。
俺としてはこういう数百年生きれるような、いわゆる長命種という種族はちょっと羨ましいと思うところがある。こういう感じの不老不死みたいなものとかは憧れちゃうよ。
「そんなことより、三名で監獄襲撃って成功するのか?祭とかで変な人が来ないようにいつも以上に警備が増えたりしてないよな」
「いえいえ、それは逆ですわ。調べたところによれば、この国の国王はいつも、国王祭を盛り上げるために国の警備をしている警察をパレードの警備などに派遣しているので、監獄の警備はいつもより少ないですわ」
「そうか、なら大丈夫そうだ」
俺たちはパレードが始まるのを待ちながら、如月たちの救出作戦を決行した。
◇ ◇ ◇
監獄は王の住む屋敷のすぐ近くに建設されており、サイズはそこまで大きくない。例えるなら普通のショッピングモール――いや、それは大きいか。いい感じにコンパクトな監獄だった。
「この世界の監獄ってどういう形をしているんだ?」
俺たちはイザベルの魔導具で中に入り、改めてこの魔導具の仕組みが気になって仕方ない。これさえあればどの施設も顔パスで通れるようになるのだから一体何の仕組みで作られているのだろうとつくづくおもう。
「普通の犯人は地上、如月のような政治犯は地下にいることでしょう。早めに行かないと彼女らが危ない目に会いますわ」
「そうだな。早めに行こう」
「この服のままでいいの?」
サンゲーノは身分を隠しやすいよう、普通の街にいそうな住民の服をさせ、擬態が解かれても大丈夫なように麦わら帽子を被させていた。彼女はその麦わらの位置を正すように帽子を回していた。
「いいよ。魔導具のおかげで彼らには関係者の服装にしか見えないからさ」
「でもやはり私は、小嶋がどうやってそのような魔導具を持つ人と知り合えたのか不思議でたまらないですの」
それを聞いて俺はあることを思い出した。それはシリエルが国王祭までの間、時間も空いたのでせっかくだからとイザベルから借りている魔導具、やや大きめでカメラのような形をしたこの魔導具を前、どういうものなのか聞いたこともあってか魔導具の動作確認をしていた。
彼女は確認をしたあと、俺に「この魔導具は復元不可能な技術で作られていて、魔力を入れるだけで何度も発動できる魔眼に近い性能をしている。つまり
「まあ、八大官は魔王討伐した人たちの末裔らしいから気にしすぎても意味ないよ」
「その魔導具いいな~それさえあれば誰でも制圧できるじゃん。私に貸してみて、これを使って君の血全部吸ってあげるよ」
サンゲーノは手を魔導具の上において誘惑するように腰を曲げながら取り出そうとする。
「やめてくれ。これには契約魔法がかけられてるから関係者じゃないと起動できない」
彼女の手を払うように腕を動かした。
すると彼女はむすっとした顔で言う。
「冗談だよ。そんなことするわけないでしょ?君と私の仲だから殺したりはしないよ」
「だとしても血が大好きな君が、いつ急に俺の血を全部ほしがるかわからないから怖いよ」
すごい懐いてくれているけど一応この子、魔族だからな。この世界で言い伝えられてる魔族は血も涙もない恐ろしい生物って聞いてるから、念のため俺は殺されないように彼女に少し前、こっそりとスキルを使って一応支配下においた。まだ一度も使用してないからきっとサンゲーノにはバレていないはずだ。
「もー!助けてくれた恩があるからそんなことはしないって言ってるでしょ!」
俺の反応に対して嫌そうな目で見つめ、両手で頬を引っ張られる。
「わかったわかった!頼むから引っ張らないでくれ!」
サンゲーノは可愛いけどその割には力が強い! 頬がはち切れそうだからやめてほしい!
「二人共そこでいちゃいちゃせずに私についてきてくださいませ。地上にはいないことが確認できたので早く地下にいきましょう」
「え、この短い間で全部チェックしてきたのか?」
「ええもちろん。もしかして私が離れていたことすら気づいてませんでしたの?」
シリエルは腕を組みながら呆れたと言いたいような顔をしていた。
「気づかなくてご、ごめん……」
「謝ることではありませんわ。小嶋はこの魔族を変な動きをしないよう見ていてくれた方が安心できますもの」
「そ、そうか……なんかごめんな」
「もー!どうしていつも君たちはそう言って魔族のことを危険視してるの!別に魔族にもいい人はいるんだよ」
話を聞いて不満げにシリエルに詰め寄るサンゲーノ。
「私も別に危険視しているわけではありませんわ。現に私には魔族の友達もいますし、もちろん仲良くもさせてもらっておりますわ。ただ、魔族ほど奥が見透かせない種族はいませんもの」
シリエルは落ち着かせようと冷静に手をサンゲーノ肩に置いて止める。魔族の友達がいるのか、ちょっと誰なのか気になるな。
「友だちがいるなら普通にわかりやすいでしょ!」
「いえいえ、その友達は特例中の特例で、いつもはだいたい仲良くしたとしても最後には魔族関連のことで揉めますわ」
「そ、そう……?どう揉めたの?」
サンゲーノは固唾をのむような顔で話を聞く。
「大昔の任務で護送対象の人が魔族だったのだけど、彼らは私の家にある魔王の遺留品とやらを見た途端奪おうとしまいまして、もちろん全員倒したけれど苦労しましたわ」
「それは仕方ないと思うよ。だって魔王の遺留品だから……」
話を聞いたサンゲーノはちょっとバツが悪そうにいう。
「それでも理由を説明すればいいものの、いきなり武力行使とは本当に野蛮ですわ」
「まあまあ、ここで争わずにはやく地下に行って如月たちを助けに行こうか」
俺はその言い争いを止めるべく中に割って止める。
「そうですわ。はやくいましょう」
「もうちょっと話したいのに!」
俺たちは階段を下り、如月のいるところへ向かうことにした。
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作者より
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これから本作はまだまだ話が続きますので、
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