第二十七話 国王祭に向けて

「小嶋殿、道中は事故に会ったようですが、無事にここまで来れたようで大変うれしいですわ。レアも私もたくさん心配していましたわ」


 剣を鞘に納めてシリエルはこちらに歩み寄る。彼女が剣を使ってるのは殆ど見ないが、これも非常事態だからなのだろうか?



「ああ、ありがとう。しかしレアとかはどうしたんだ?全く見かけてないが、一体あそこで分かれてから何が起きたんだ?」


 後ろにいるサンゲーノを来るように手で合図をする。



「あれから色々ありまして……あら?その子は?」

「道中で知り合った面白い子だ。ほら、挨拶して」

「こんにちはお姉さん。サンゲーノと申します」


 手を振って挨拶を律儀にするサンゲーノ。この子、こんなに礼儀正しかったっけ? 俺のときはずっと血を要求しながらついてきたのになあ。



「ふーん、魔族の知り合いを作るなんて珍しいですわ。ほとんどは見かけないのに運がいいですわね。それでこの子はどういう種類の子かしら?」


「え?どうしてこの子が魔族だとわかったんだ?」


「魔力よ。いくら擬態出来たとしても私のような魔術師にかかれば、魔力の形で見えますわ」


 シリエルは自分の指でサンゲーノの形をなぞるように動かす。



「すげえな。そんな方法があるんだ。どういう仕組みか教えてくれないか?」

「かなりの技術が必要になりますので、教えるのは後々の話になりますわ」


 そんな雑談をしていると不服そうにサンゲーノが話に割り込んできた。



「なんで二人とずっと話してるの!私を忘れないで!」

「ああ、ごめんごめん。この子は魔族の吸血鬼だ」


「う、うん。私は吸血鬼!いつも小嶋に血を吸わせてもらってる」

「へえ、でもあまり魔族に肩入れするのはよくないことですわ」


 シリエルはそれを見てちょっと考えるように顎を手に乗せて話す。



「やっぱりそう言われるか……」

「もちろん。それで行けない場所も増えてきますの」

「私は擬態できるから行けるよ!」


「でも、それだとしてもいけませんわ。実生活では困らないとしてもきっとこれから入ってくるメンバーらが良く思いませんね」

「それはそうだが……」


「でも小嶋がそう思うのなら大丈夫ですわ。このチームはあなたが作ったようなものですの」


「そういえばそのチームとやらって何なんだ?俺はその話を一度も聞いてないが」



「ええ、ちょうど話そうと考えておりましたの。あなたが離れてから無事についた私たちは如月の案として、道中で盗賊と戦闘になっても勝てるだろうから、小嶋が返ってくるまで西村たちの動向を探る形として国にいる、反乱を企てるものたちに協力することにしたわ。名前をコジマにすれば一部の人はすぐに気づくとも言っていたわ」



 如月さんってそんなに賢いんだと思いながら感心する。確かに名前をそれにすれば少なくとも俺は気づいて動向を追うだろう。



「でも、それだと西村たちにこちらの動きがバレるんじゃないか?」



「それも踏まえてやっているわ。この名前は警告にもなるのと彼らは小嶋の方が気になり、たとえ復讐目的だとわかってもそれをしようとしているのは如月たちだと思わなくなるわ」


 口を手で覆いふむふむと俺は納得する。その隣でサンゲーノは退屈そうに俺の肩に顔を乗せる。



「サンゲーノ、何してるんだお前」


「暇だし話が長い」


「はは、ごめんな。こっちの話だ。それで、レアたちはどこにいるんだ?早く合流したいんだ、こっちも事情あって手伝いたい」



「それは、あまり好ましくない状況ですわ。レアたちは色んな領地で分散して破壊工作中ですが、一部は領主との戦闘で負けてしまってそのまま捕まりましたの。強いレアはもちろん大丈夫ですが、如月たちと考えに賛同した一部の仲間が捕まったんですの」



「そうか、ならそいつらを助けに行こう」


「実は私も別の場所ですが、ここに捕まってしまって今ようやく出れたところですの」


「だから街を燃やしたの?最低」



「私は燃やしてませんわ、ただ私が逃げてくるときに他の人を助けてきたので、その逃げてきた人が恨みでこの街を燃やしてるのだと思いますわ。話によれば私以外にも火属性の魔術師がいたそうなのできっとその御方のことなのでしょう。嬉しくないことになぜ私がその魔術師だと思われてるようですわ」



「そうか、流石にシリエルがやるわけないよな」


 いくらレアからの評判が悪いシリエルでも急に無関係な場所を燃やすとは思えなかった。だが、これで理解できた。おそらく助けた人が街に恨みを持ったのでシリエルの裏でそういうことをしたのだろう。



「早くその仲間たちを助けに行こうよ」


「そうだな、サンゲーノ二人持って飛んでいくことはできるか?」


「できるわけないでしょ!歩いていくよ!」

「やっぱ歩くしか無いか……」



 俺は落胆しながらシリエルたちと街から離れた。街の火災はだいぶ弱くなっており、先程ほどひどい空気ではなくなっていた。




   ◇  ◇  ◇




 そして俺たちはこの国で一番大きい監獄がある領地にやってきた。ここは八大官の中で一番戦闘力のある街で、如月たちはここで捕まったそうだ。王都にも近く、少し歩けば王都の領内に入るみたいだ。



 入り口の警備は厳しかったけどイザベルの魔導具を使うと難なく入れた。この魔導具の仕組みがよくわからないからシリエルに聞いてみたものの、彼女もよくわかってないようだった。なら、これはどういう魔導具なんだ。と少し思った。



 ここでもう一度イザベルやネーヴェたちと会えるかもしれないと俺は少しだけ心を踊らせながら街へと入った。街は今までにないほどの警備が敷かれており、数歩の距離に警備が立っていた。



「小嶋、ここちょっとこわい」

「怪しい動きをしないように気をつければきっと大丈夫だよ」

「そうですわ、気にせずに行きましょう」


 街の至る所になにかに破壊された跡があり、それらからここが何者かに荒らされたことがわかる。



「それで今からどうする?監獄に行って様子見か?」

 一度警戒されないように路地裏に入ってから、シリエルやサンゲーノに聞いてみる。



「いえ、数日後にある国王祭で如月らの処刑が行われるそうですのでその時に助けてみるわ。レアもその時に合流できるという話があるのでその時に動きましょう」


「そうか、そっちが無難だな。ってか国王祭っていつどこでやってるんだ?」

 あれから色々ありすぎていつ国王祭始まるのか忘れてしまった。いつだっけ?一週間後? 五日後だっけ?



「祭はこの街で行い、開催日は二日後ぐらいですわ。きっと国も国王祭を開催するためにこのような過激派を止めようと必死でしょう。聞くところによれば兵士を派遣して色んな施設を定期的に立ち入り検査をしているらしいわ」

 シリエルは思い出そうと顎に手を当てて考え始めた。



「それ大変だな。つまり俺らが寝る場所はないってことなのか?」

「ええ、そうなりますわ」

 ちょっとそれは嫌だな。と思いながら考える。宿が使えないなら誰かを脅してうまく匿ってもらうべきか?



「じゃあ、私と一緒に長年体験してきた路地裏生活しようよ」

 興味なくてあまり話せなかったサンゲーノが目をキラキラさせながら口を開いて話に入る。



「路地裏はちょっと嫌だ」

「小嶋は温室育ちなところがありますわ。路地裏は見られる可能性があるので私たちは近くにある森林で寝ましょう。そこならきっと見回りは来ませんので安全ですわ」

 痛いことを言われた。確かに俺は親の家で生まれていつも過ごしてたから温室育ちだよ。だけど流石に路地裏は抵抗ないのか? いやないか、ここ異世界だから違うもんな。



「森林か、森林ならいいな。木の上とかに寝ればバレなさそうだし、しばらく過ごせそうだ」

「ええ、いい案でしょう?」

「小嶋がそういうなら仕方ないな……はやくいこう」

 サンゲーノは自分の案が通らないことにちょっと不服そうにうなだれる。


 シリエルのあとをついていき、森林に向かった。このまま国王祭を阻止してイザベルやネーヴェたちにもう一度会わないとなあ。



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