ランナウェイ
釣ール
無用
また壁側に追い詰められた。
なにゆえ日本の路地裏はこうも追い詰めやすく出来ているんだ。
フィクションの中だけだと思っていたのに!
しかも大体このシチュエーションは上官の謀殺だった。
あれ?
まさかここで一生を終えるとか?
いや、その前にまた路地裏に追い詰められるなんて?と疑問に思った方がいるかもしれない。
学習していないわけじゃない。
あいつらこっちの習性を利用してやがる!
もっと言うと俺は『人間じゃない』
「くそっ…」
人間態は用意しているがあまり強そうに思われてないのに狙われやすいのか、よく絡まれては一方的に攻撃をされる。
まあ人間じゃない生命体ではあるものの数で襲われりゃ、正体は鱗で守られていても結構痛い。
そんな怒りと憎しみに満ち溢れた種族である人間に対して自己紹介をしよう。
こうは言ってるけど種族が違う天敵には敵わないんだから別に憎しみとかはない。
恨みで滅んでくれるのならそんなイージーな一生なんてないんだから。
話が逸れそうなので修正しよう。
戸籍がどうとか細かいことは別として、俺の名前は「シンクロウ」らしい。
昔、俺と似た種族に運良く出会えて連んでたんだ。
その時にいつのまにか付けられた名前だ。
けれど、人間関係って今も昔も離職率ナンバーワンの理由の一つだろう?
人間だけじゃない。
知的生命体の運命なのか、こっちも長続きしなくてお互いどんな生活しているのか全くわからない。
そもそもSNS社会や古い生活スタイルのアップデートがうまくいかなくて生きづらさが人間も蔓延している。
俺たちにもその余波は来ている。
だからって食物連鎖の頂点におられる人間達に反旗を翻せるほどフィクションみたいに強くないんだぜ俺たちは。
はあ。
しかし何回路地裏に追い詰められては殴られているのだろう。
毎回趣味で作った蝋細工の札束を渡してはしのいできたのに。
騙されたと報復に来るかと思ったら全く違うグループにやられたり。
勿論蝋細工の札束を。
困りすぎだろ。
こんなに攻撃されるとは思わなかった。
人間じゃないから食らっても対して痛くもないけれど、ダメージはある。
けど仕方がない。
人間の法律で武力の行使は禁止されているし、かといって可愛い動植物でもないから保護されなくて済むけれどサンドバッグみたいにされるし、正体なんて明かす馬鹿は同族にいない。
はあ。
なんか虚しいや。
さっさと路地裏から出よう。
いつもの人間態は気に入ってたし、やっと釣り合う服装もゲットしたのに更新の時間だ。
今時筋肉質な姿なんてしたら日常に溶け込めないからあえて弱そうな姿にしたら狙われる。
かといって雌型に変える趣味ないからなあ。
何だかんだ姿を更新して路地裏を去った。
しかし人間は怖い。
フィクションでも人間を軽く倒せるキャラはいても最終的に人間が何らかに変身をし、そこから
逆転劇が起きて倒されたりするんだっけか?
たまにカミだかガイネンだか人智を超えた上から目線のやばい奴が出てくることはあるけれど最終的に人間次第ってテーマに落ち着くから結局人間が怖いことになる。
またまた昔話になるが、俺たちの種族にも気が荒い奴はどうしても出てくる。
どういうわけか種族を超えて類友になり、野生的な戦闘タイプの人間とそいつはサシで勝負したとか。
それもあれか。
俺を逃がすためだったか。
死んでないといいなあ。
群れてなきゃ弱い人間の中にも稀に一人でも強い奴っているわけで。
けどあの人間も器用そうではなかったからもしかしたらこっちの仲間になってもおかしくないのか。
つまり俺が言いたいことは
「理不尽って奴は人間だけに訪れるわけではない!」
と声を大にしていいたい。
アロマ炊いたりなんかして応急処置したところで理想の世界なんてどの生物にも訪れやしない。
俺たちだって結局は人間が必要悪として君臨してくれてるから世の中捨てたもんじゃないと思えるのだ。
俺たちが人間に成り代わって統治したら真っ先に滅びる。
それでも多少の飢餓くらいじゃ十年は耐えられるし、人間の姿になれるから模倣で必要な物を用意も可能。
かといってその力を人間の世界で披露しても金にさせてもらえない。
更に頑丈で柔軟な鱗と肉体で雌雄も自在だから子孫繁栄も難しくない。
だが俺たちはまとまりがないから二十年に一回会えればいいし、こんな世界で子を残すのも忍びないから遠慮はあるし。
それでも生き延びてしまう。
辛くもないし、優しくもない。
互いを利用し合うことで成り立つ一生を経験してしまったらもう、旅をするしかない。
なんかの魔法使い?魔法女の子?が銃でメッセージを伝えるように
「生きるしかないじゃない!」
と妄想したって一時的に出来た仲間に言ったら面白がられた。
あいつらも元気してるかな。
歩くだけ歩いていたら少年少女が誰かにたかられていた。
こんな厳しいご時世で…なりふり構ってられないか!
俺は十代男子に擬態し、その中へ割って入る。
「逃げろぉぉぉぉ!」
鬼気迫る演技で言い放ったから二人はその場を立ち去った。
「なんだクソガキ。
助けたつもりか?」
ほんと進歩がない生き物だな。
別にしかたないけれど。
「ほら、この札束を見ろ!
お前らが死ぬほど嘲笑っている連中が好んでる対価だ。
ただで渡すわけにはいかないから俺との鬼ごっこに付き合ってもらうぜ。」
いい終わる前に飛びかかってきやがった。
そういえば近年の映像娯楽は早送りで人間は再生しているらしいから人の話を最後まで聞く余裕がないのか。
人じゃないけど!
そこで置いて帰ればよかったのに少年少女が心配で逃走する羽目になった。
こういう時のために太ももは擬態よりも鍛えてある。
逃げろ!
方向は問わない!
逃げ続けろ!
ランナウェイ 釣ール @pixixy1O
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