第6話 萎んだボール

 ルナは今までぬくぬくと育ってきて、人から悪意を持たれるなんてことに気付かずに生きてきた。みんながみんな自分のことを好きでいてくれるはずはない、そんなことさえ考えたこともなかった。

 思えば1年のときはクラスが一緒だったヨッシーやあきこちゃんに支えてもらっていたんだ。

 それに父親の部下だからなんてことは知らないし、そんなこと気にかけたこともなかった。大人の思惑に巻き込まないでほしい。


 今まで調子よく弾んでいたボールがみるみる萎んで、身体から力が抜けてしまってルナはどうしようもなくなった。

 家の前にある学校がとてつもなく遠くに感じられ、どうしても行けなくなってしまった。




 田辺が持って来てくれるノートを頼りに学期末試験だけは何とか受けた。

 その試験を受けるたびに上履きを新調しなければならず、学期末になると靴箱に置いてある靴は一斉撤去された。一度しか履いてない真新しい上履きを捨てるとき、三橋は何も感じないのだろうか。

 ナオは試験が終わったら持って帰って来なさいと言うのだが、ルナは明日からは行こう。明日からは行けると、靴箱にその思いを遺してきているのではないかと思え、言うのをやめた。


 サッカー部の顧問をする三橋は夕方になると、部活終わりに大谷家を訪れた。

 毎日のように顔を見せられ不快なことこの上ない。

 少し迷惑ですとナオがいうと、校長に言われてるから来てるだけですと、本音を曝け出した。

 その翌日から三橋は顔を見せなくなった。





「高校にも行かないと言ったときには、どないしよう思うたけど、3年になってクラス担任が変わって良かった」

「やっぱり学校に行けなくなったのは三橋って先生の影響もあったんだね」


 最近、胃の具合の悪いナオはミルクティーを飲んでいた。

 レイもそれに付き合っている。


「今度の先生はどんな感じ?」

「竹を割ったような性格の女性の先生で、スパン、スパンて歯切れがええの。三橋に何を言われたかわからへんけど、先生との相性もあるんやね」

「それでルナちゃん、機嫌よく行ってるんだ」


 袋に2枚入っているクッキーの1枚をナオに差し出すと、ナオは首を横に振った。


「で、ルナに名前を変えなさいよって言った女の子は別のクラスなんでしょ」

「それが、また同じクラスやの。三橋の嫌がらせか」

「ルナちゃん、めげずに行ってるんだ、偉い、偉い」

「長いお休みもろたからね」


 ナオがカップを片付けようとすると、


「レイがやるからナオさん少しお昼寝したら」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 今度のことはナオをひどく消耗させた。

 でも、一番辛いのはルナだった。



 ルナのボールはお日様を受けて、また膨らみ始めた。

 よく弾むボールは、どっちを向いていくのだろう。






         【了】








 🏠今回は重苦しいテーマで、思春期にありがちな避けては通れないと思った話を書いたのですが、書いていてどうも鬱々となってしまうのは辛かったです。この次は元気いっぱいのルナちゃんを登場させます。

 最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。(*- -)(*_ _)ペコリ



続きまして『🏠ルナ弾む』よろしくお願いします。


https://kakuyomu.jp/my/works/16817330667653632509/episodes/16817330667656546432






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14🏠ルナの試練 オカン🐷 @magarikado

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