第5話 議題はルナ
「大谷のお父さんの部下の子だから、田辺をパシリにしているのかと思ったぞ」
2年になって初めての学級会で、唐突に担任教師三橋が言った。
3か月ほど前のことになる。
えっ、タナベ君のお父さんも警察官だったの? 知らなかった。ヤバイ。タナベ君、あんたはもっとまずいよね。ルナは思った。
「嘘よ。大谷さんのお父さん、警察官じゃないわ」
大石留奈が叫ぶように言った。
「ひょっとして、それでルナちゃんを嘘つきって言ってたの?」
どうやらルナは嘘つき呼ばわりされていたみたい。
「だって、ママが警察官官舎には大谷という警察官はいないって」
田辺は呆れた顔をして言った。
「ルナちゃんの親父さんは偉いさんだから俺らみたいに官舎には入らないし、だいいち大きな家に住んでいる。お祖父さんは鬼哲と呼ばれた警察庁長官にまでなった人だ」
へえ、お祖父ちゃんて偉い人だったんだ。
「ルナちゃんの家行ったことある。遊びに行きたいって言ったらお誕生日に呼んでくれて、フルーツやらクリームのどっさり載ったママの焼いた大きなケーキ食べて、3階で『マザーズの逆襲』のゲームを巨大スクリーンでやらせてもらったんだ」
「いいなあ」
「3階にはエレベーターで上がるんだよ。それでゲーム会社の人たちが生演奏してくれて。ルナのお誕生祝いに来てくれたお礼だよ。みんなには内緒にしてねって、あっ、しゃべちゃった」
結音は慌てて口を押えた。
「えっ、ユイも行ったの? いいなあ、ねえルナちゃん、私も呼んで」
「う、うん」
「私も」
「私も」
あちこちの席から声がして、ルナは眩暈がしそうだった。
コホン
田辺が咳ばらいをした。
「不動産詐欺事件やAI美人局事件、奥多摩入水事件を解決したのはルナちゃんのお父さんだよ。大石、わかったか。それに先生、おれルナちゃんのパシリじゃありません。好きでやってるんです」
タナベ君、どうしてそんなにパパのこと知ってるの?
「おお、そうか悪かったな」
「ちょっと待って。どうして私は大石さんで、大谷さんはルナちゃんなの?」
「ルナちゃんはルナちゃんだから」
教室中が蜂の巣を突っついたような騒ぎになり、先生は大きな声を出した。
「大谷、もういいだろう」
何が、何がもういいの? ルナは一言も何も発してないのに。
「それから前から言っているように、髪の毛を黒く染めるか、染めてないという証明書を提出するように」
「先生、ルナちゃんは幼稚園のときから、あの髪の毛です」
「ルナちゃんて外国人の血が入っているんでしょ」
また騒ぎ出す生徒を置き去りに、三橋は教室を出て行った。
1年のときのクラス担任から髪の毛のことは言われたことはなかった。
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