四段落
目を開くと、知らない天井がそこにあった。なんとありきたりなんだろうか、と骸井は思った。
そして、骸井自身の身体はベットから三センチ上空にあった。
ドスンッ……ギッギッ、ギッ……。
これはあれなのだろう、中学や高校ぐらいの男子特有の眠っている間に痙攣反応起きるやつ、の最上級版が起きたということだろうと推測する。
しかし、これほどまでに体が浮くなんて、人間というものはまだまだ不思議だと思った。
これが起きた時、毎回思うが、はるか先の見えない上空にあった意識が落ちてきて、そのまま地面にバウンドして、その反動が実際の身体に反映されているとしか思えないのだが、同じ年代の他の奴もそうなのだろうかと疑問に思った。
「お疲れ様です。良い夢は見られましたか?」
寝そべった時の足の奥に見える扉からゆっくりと入ってきた、淡い紫色の白衣を着た男がそう言った。
一瞬だけ自分が何をしていたか忘れていたが、そうか。そうだった。
「そうだな……『青春を感じる友情物語』みたいな夢を見たいと頼んだはずだが、なんか思っていたよりもドラスティックな内容だった気がするが」
「ははっ! それはあれですね! 見てみたい夢とお客様の深層心理が混じった状態でしか再現できないものですから、注文された内容以外の要素はお客様の無意識が創り出しています! つまりはそういうことです」
要は、催眠術を応用して人の夢に干渉するのには限度があるけれど、ある程度意に沿ったものが体験できるということだったらしい。
「ところで一ついいか?」
「はい! なんでしょう!」
「あんたの名前は?」
「はい、今回担当させていただいた私の名前は、
全くもって全くだった。
一目惹かれた広告のせいで、『夢見屋』という店に行ってみたが、まぁ想像よりも普通だった。
まぁ、いつもよりも夢を鮮明に覚えていて、ある程度見たい夢を見れはしたのが、想像していたよりもドンピシャの夢を見れたとは言いずらいと思った。
しかも、親友の役がまさか店員そのままで出てくるとなると、それは果たして良いのか悪いのか。
あと、そもそもうちの高校には屋上に行く手段が存在しない。
それでも無理矢理行くとするなら、どうにかして壁を這いあがっていくか、外装工事かなんかで仮設された階段を目を盗んでいくかぐらいだろう。いや、僕は断じてやっていない……本当だ。そのせいもあって屋上への憧憬は人一倍強い。
……だから、あんな夢を見たのかもしれないなと、骸井は一人で咀嚼した。
それはともかくとして、骸井が一番納得いかなかったのは、夢オチで終わった事であった。
僕が作るとしたら、打水には幼馴染がいることにして、その幼馴染が打水に片思いしながらも打水の恋慕の相手が自分じゃないことに気づいて、打水と共に死して永遠に添い遂げるために呪物を使って、自分の命を生贄に呪いをかけるだろう。
そして、打水はその呪いのせいで屋上から飛び降りるのだが、それに巻き込まれて同じ日を繰り返してしまう。
そして、永遠の時間に閉じ込まれた打水とその幼馴染が愛し合ってる世界に気づきながらも、どうにか脱出する――そんなお話にするだろうな。
……まぁ、それならば『青春を感じる友情物語』というオーダーとは全くもって違うから、そうならないのは当たり前の事ではあるが。
というか、あれ。
僕のこの思考のせいで、純粋な青春物語的な夢を見れなかったのではないか?
……そうだとしたら。
それはあまりにも無意識が占める割合が多すぎないかと思うのだが、それこそ催眠術が得意とする範囲じゃないのかと思うと疑問が残る。
まぁ、ここは「今後の技術発展に期待」、と評して結末ということにしておこう、と骸井は自分自身に納得させるのだった。
夢想文学 不透明ふぅりん @iie_sou
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