第2話
「路、今日の天気はどんな様子だい」
「とっても爽やかな日本晴れでございます。せっかくですので、お外に出てみませんか?」
「僕はここから出られない」
「まあ、そんな。お外に出て、太陽の光を浴びれば元気も出ますよ」
「僕は少し眠る。ひるげの時間になったら起こしておくれ」
「そんなに寝ていては畳と同化してしまいます」
「同化できるものならしてみたい」
そう言ってすばる様は畳に横になって寝息を立て始めました。今日はご家族が離れを訪ねて来られる日のためか、とても不機嫌なようです。
ジワジワと鳴く蝉の声だけが、座敷に響き渡っておりました。私はすばる様を外に連れ出すのを諦め、廊下の拭き掃除へと向かいました。
朝昼晩の食事と、お茶の用意、掃除やお布団のお支度。そしてすばる様の話し相手。それが私の務めでございます。
私がこのお屋敷へ奉公に来始めたのは十三の頃。今から三年前のことです。
すばる様とは同い年ですが、お世話係を任された頃から、わたしなどよりずっと大人びた容姿をしておられました。その時も今も、姿形は変わられません。
「すばる様があんなにもご家族をお嫌いになるのも、少しわかる気がするわ。だって、こんなところでたった一人。長女の和子様も次男の寅次様も学校に通われているというのに。なぜすばる様だけこんな扱いを」
汗を手拭いで拭いながらそう呟いて、外を掃いていた女中と目が合いました。
無礼な独り言を咎められると思い、慌てて目を逸らしましたが、彼女が声をかけてくることはありませんでした。
ここの使用人たちは変なのです。
すばる様だけでなく、専属の使用人である私までも、まるで存在しないもののように扱うのですから。
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