第6話
父と母の顔を見るのは三年ぶりになります。
嬉しいのは事実ですが、それと同じくらい、すばる様と離れ離れになることが寂しくて仕方ありません。
淡々と仕事をこなしていく中で、家に帰る日の前の晩、夕食の支度を終えて帰る私に、すばる様は声をかけられました。
「明日か、路が出ていくのは」
「はい、左様でございます」
「僕と離れるのが寂しいか」
すばる様はニヤニヤと笑っておられます。意地が悪いと思いました。顔に出やすい私のこと、落ち込んでいるのは目に見えてわかるはずです。
「寂しいに決まっております。三年も一緒に過ごさせていただいたのですから」
「そうだなあ」
ここ二日間は、ずっと玉と一緒に出入りをしていたため、すばる様と二人きりになる時間はございませんでした。これが最後の機会と思うと、涙がポロリと溢れてしまいました。
「泣くな、路。今生の別れではないのだから」
「今生の別れも同じです。もうきっと、二度とお会いすることは叶いません」
「では、路にこれをやろう」
そう言ってすばる様は、押入れの中から小さな壺を取り出しました。
土に汚れていて、まるでどこからか掘り出したかのような有様です。
「用意するのに手間取ってな。土を落とす暇がなかった。幸運のお守りだ、持って帰れ」
「これが、お守り、ですか」
手に取れば、思ったより重くはありませんでしたが、中に何か入っている気配はします。陶器の蓋がされていて、縄で十字に縛られていました。まるで中から何かがでこないように、封印してあるかのようです。
「そうだ。絶対に中は見るんじゃないぞ」
「はあ……」
幸運のお守りなどというものは、この屋敷の中に溢れています。旦那様のせいです。
これもその一つと言われれば、納得はできるものの。あまりに不気味なその姿に、私はあまり進んで持ち帰ろうという気にはなりませんでした。しかしお慕いするすばる様が下さったもの。無下にはできません。
丁寧にお礼を言って、私は壺を持って部屋に下がりました。
その日を最後に、すばる様と会うことはありませんでした。
三日めの朝は、最後の挨拶をする時間をいただけなかったのです。
どうやら私が部屋に下がったあと玉が呼ばれ、昼過ぎまで起こすなと言付けをなされたようでした
私は迎えの馬車の中で泣きました。
初恋の終わりは呆気のないものだと、身に染みて思いました。
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