第4話

「すばる様? 離れにいらしたはずでは?」


 驚いて問えば、すばる様はいつもの無表情で私の質問に答えます。


「ああ、いるよ。あいつらはもう帰った」


「これは夢なのでしょうか?」


「そうだ、路の夢だよ。気晴らしにやってきてみた。いつものようにくだらぬ話しかしなかったぞ、奴らは」


「まあ、そんなふうにご家族のことを言ってはいけませんよ。でも夢にまですばる様を見るなんて。いつも一緒におりますのに、おかしいですね」


 ふふ、と頬を綻ばせれば、すばる様も少しだけ笑顔を見せてくださいました。


「私がすばる様のことをお慕いしているから、夢にまでも見るのでしょうか」


 笑顔をお見せいただけたのが嬉しくて、つい口を滑らせてしまいました。慌てて両手で口をおさえ、私は下を向きます。


 いくら夢の中といえど、大胆すぎるのではないかと。

 秘めた想いをうっかり口にしたことで、頬に熱が宿るのを感じました。


「それ、本当?」


「今のは忘れてください。夢の中ということで、口が滑ってしまいました」


「本当に本当の路の気持ち?」


「おやめください」


 自分で作り出したすばる様は、いつもの氷のような表情ではなく、瞳を輝かせてこちらを見ておられます。私は恥ずかしくなって、布団を被り直して寝たふりを決め込むことにしました。すでに寝ているはずなので、それもおかしな話なのですが。


「そうか、路は僕が好きなのか。そうか……僕は初めて誰かに好いてもらえたよ……」


 喜びを噛み締めるような、涙を堪えるような声で、すばる様がそう言うのを聞き届けて、私の意識は遠のいていきます。


 青白い光が差し込むのを感じ、私は薄く目を開けました。

 もう夜明けのようです。布団から身を起こし、周りを見渡せば、やはりすばる様の姿はありません。


「よかったわ、夢で。そもそもすばる様がこんなところに夜いらっしゃるわけないものね」


 早速あさげの用意をせねばなりません。使用人の朝は早いのです。私は離れへと向かいました。

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