祀る家

春日あざみ@電子書籍発売中

第1話

 私の主人は、雪のように肌の白い方でした。


 あまりに儚げで麗しいお姿に、初めてお会いしたときは、この世のものとは思えないその容姿に、不躾とは知りながら、ついつい見入ってしまったほどです。

 他の使用人も、この家の神様だ、などといった言葉で褒め称えておりました。


 いえ、主人と言っても、配偶者という意味ではないのです。


 名前をすばる様とおっしゃって、私、路が女中として働かせていただいている、老舗呉服屋「鷹取屋」の創業家、鷹取家のおぼっちゃまのことでございます。


 鷹取屋はこの町で一番の呉服屋で、創業家の皆様は誰もが羨む豪勢な屋敷に住んでおられました。使用人の数も多く、家の中も活気で溢れております。これもひとえに、鷹取屋を切り盛りする旦那様のお力なのでしょう。


 潔癖な程に完璧を求められ、商売のためにはなりふり構わず前進するその姿勢に、傾倒される男の方は多いと聞きます。


 そんな鷹取家にて、私は長男であるすばる様の身の回りのお世話を担当しております。


 十六歳という年齢にしては、とても線の細い方で。お屋敷の敷地内にある離れでお一人でお住まいになっておられました。


 病弱なためなのか、いつも家にこもっておられます。足が不自由なようで、座敷の上を這うようにしてご移動されます。


 他のご家族はほとんど、すばる様とお会いになりません。

 盆暮正月にだけ、離れにお越しになられます。その際には私は席を外すように言われておりましたので、すばる様がご家族とどのように過ごされているのか、どんな会話をされているのかについては、預かり知らぬことでございます。


 ただ、すばる様は、ご家族が帰ったあと、いつも浮かない顔をされていました。

 浮かない、というのは表現が少し違うかもしれません。


 言葉を選ばずにいえば、まるで憎いものに向けるような、鋭い瞳をされていたのです。

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