18章 帝都 ~武闘大会~ 13
執事のゾルベルク氏に従って控えの間を出て、廊下を歩く。見えてくるのは重厚かつ壮麗な純白の両開きの扉だ。縦横に10メートルはあり、しかも金やミスリルといった希少金属で部分部分に装飾がなされている。この扉だけでどれだけのコストがかかっているのか想像もできない。
「ここから先は『ソールの導き』の皆様だけで進まれますよう」
ゾルベルク氏が扉の横に下がり、そして扉が係の者の手によって開かれていく。
大陸の盟主たる帝国、その帝城の謁見の間は、まずその広大な空間で俺たちを圧倒した。俺が知っているものだと、前世の国立劇場のホールとかそういうレベルの広さである。
床や壁はすべて純白の大理石のようなものでテクスチャが統一され、その鏡のように磨かれた床の上には、幅7、8メートルくらいの、目を射るほどに真紅のカーペットが奥の雛壇まで続いている。
最奥にはもちろん玉座があり、すでに皇帝陛下が着座している。その横にマリシエール殿下が立っているのは護衛を兼ねているのだろう。反対側に立つ白く長い髭を持った老年の男性は宰相閣下である。
左右には宮廷貴族と言うのだろうか、位の高そうな人間が、ざっと見ただけでも300人ほど並んでいる。一様に俺たちを興味深そうに見ているが、ひそひそと話をしているのも聞こえてくる。
「オクノ伯爵、そして『ソールの導き』のご一行は、皇帝陛下の前まで進まれよ」
典礼官の声に従って、俺を先頭にしてカーペットの上を進む。ヴァーミリアン王国でも同じことは経験したが、このような儀式に慣れるということは一生ない気がする。
玉座の前まで行き、膝を折って
「王国伯爵ソウシ・オクノ、そして『ソールの導き』9名、皇帝陛下の御前にまかりこしてございます。陛下にお目通りかないましたことを光栄に存じます」
俺が定型文に近い挨拶を述べると、皇帝陛下がうなずく気配が感じられる。
「オクノ伯爵、そして『ソールの導き』の皆、この帝国に来られたことを嬉しく思う。
「はっ」
皇帝としての正装をまとい、玉座に座る皇帝陛下は、昨日までとはまた違った、大国の長たる威厳が備わっていた。地位が人を作るという言葉もあるが、彼については元から人の上に立つようななにかがあるのだろうと思われるほどだ。
俺も伯爵位などもらってしまったが、あの十分の一でも威厳がつくことがあるのだろうかと考えると、望みは薄いと言わざるをえない。まあそれこそきちんと地位に着けば多少は身につくと思いたいが。
「さてオクノ伯爵殿。まず伯爵殿には、南に現れた『カオスフレアドラゴン』なる強大なモンスターを討伐していただいたようだ。そちらについてはすでに相違なしということで確認もとれているが、オクノ伯爵としても異存なしということでよろしいな」
「は、異存ございません」
「うむ。それからザンザギル領にて鉱山の落石事故解決に寄与し、さらにはその事故を引き起こした『黄昏の眷族』2体を討伐したことも確認は取れている。それも相違ないか」
「は。相違ございません」
「うむ。貴殿の功績は真に大きく、余は皇帝として、貴殿の功に十全に応えようと思う。その前に一つ確認であるが、貴殿はすでにヴァーミリアン王国伯爵に叙せられているが、かの国の国王より、他国での叙爵を妨げぬと確約をいただいた。貴殿もその点、すでに聞かされているということでよいだろうか」
「は、そのようにうかがっております」
「よろしい。では貴殿に、次の褒賞を授けよう。宰相」
「はっ」
玉座の横に控えていた宰相閣下が、トレイに載せていた巻物を皇帝陛下に渡す。
陛下はその巻物を広げると、厳かに宣言した。
「
左右の廷臣たちからググッと圧がかかるのが分かる。私語を漏らすものはいないが、やはり相当に破格の褒賞なのだろう。特に帝国名誉伯爵位——これは王国のそれに準じたものらしい——というのが前代未聞な上に、実質侯爵扱いというのが大きい。
帝国でも公爵位は帝室の血筋しかなれないようなので、実質貴族としては最高位の扱いとなるわけだ。……と言っても、俺にはその意味合いが体感としてまるで分からないのだが。
「以上、受け取られよ」
「はっ、謹んでお受けいたします」
ともあれ、これで俺は正式に二国に渡っての貴族となった。領地を持たない上に宮廷にも出仕しないという例外だらけの人間だが、それを帝国が認めざるをえなかったという意味はよく考えておかないとならないだろう。
しかしその前に、王国も帝国も、話の分かる人がトップだったというのは
当然ながらその夜は叙爵祝いのパーティなるものが帝室主催で開かれた。
主賓は俺ということで、30人を超える上位の貴族たちに挨拶をされた。中には早くも娘や孫を紹介しようとしてくる当主などがいて
もっともなぜなくなったのかを考えると安心することもできないのだが……。
『ソールの導き』のメンバーも出席をして欲しいということで、彼女たちも全員パーティ用のドレスに着替えて出席をしていた。きらびやかな帝室のパーティの中にあっても、彼女たちの存在感は抜きんでている気がする。
特にハイエルフであるスフェーニアなどは、見た目もさることながら所作も貴族的にこなすことができるので、男の目をこれでもかというくらい惹きつけていた。
フレイニルやシズナ、サクラヒメもその出自からかなり慣れた雰囲気で、高貴な人間の集うパーティであってもかなり自然に振舞っている。一方でラーニとカルマは貴族などどこ吹く風、ひたすら食べる方に集中している。
面白いのはマリアネで、見た目は貴族の御夫人にも引けを取らないのでしきりに若い男性貴族に話しかけられていた。ただいつもの塩対応をしているらしく、会話が長続きする男性貴族はいない。このような場で普段通りにできるのは、Aランク冒険者として肝が据わっているからだろうか。
なおゲシューラは、「我が出席すれば面倒があろう。我自身そのような場は好まぬ」との本人の意見もあり出席していない。
ともかく俺に対する挨拶攻勢も一段落し、ようやく料理の味を楽しめるようになってきた頃。
俺が部屋の端の方でカクテルに口をつけていると、ふと気になることがあった。
とある中年女性の貴族が、体格のいい青年貴族を連れてマリシエール殿下に挨拶をしているのだ。
もっともそれだけなら、単に女性貴族が自分の息子をマリシエール殿下に紹介しているだけの場面ともとれる。もしかしたら結婚相手としてどうか……などと言っている可能性もあるが、それはそれで貴族としてはおかしい話でもない。
ただその女性貴族と青年に、俺は言いようのない微妙な違和感を持った。彼女たちは本来この場にいるべきではない人間である……そんな印象を受けたのである。
おっさん異世界で最強になる ~物理特化型なのでパーティを組んだらなぜかハーレムに~ 次佐 駆人 @jisa_kuhito
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