『儚い存在の懊悩』

名無しのブッタマン

短編 『儚い存在の懊悩』


私たちはたくさんの球体が集まり合っているような存在であった。


自分たちを支え合うかのように膨張と縮小を繰り返し、お互いを支え合うかのようにお互いを揺らし合っていた。


一定の速度と、一定の力で、みんなと同じ方向を泳いだり、みんなで力比べをするかのように引っ張り合ったりを繰り返していた。



何かの存在によって、私は黒い筒状の入れ物に入れられた。


入れ物に入れられてからは仲間がいない。


ずっと筒の中を泳ぎ回って仲間を探していたけど、どうやらこの入れ物の中には私しかいないようだ。


暗い暗い景色しかない空間の中で、私は彷徨い続けた。


しかし、黒い筒の中に1箇所だけ断絶された空間があった。


そこには仲間と通じ合えるための空間が存在していることに気づき、私はずっと断絶された空間の中にいた。


仲間によると、この筒の中には時間という機能が元々存在しているらしい。


私たちは何もない空間で隔離されている状態ではあるが、仲間と繋がり合えるのならいいと思ってはいた。

しかし、みんな、あの存在が残した巣立ちという意味を考え始めた。


仲間の1人がある情報を伝播してきた。


その仲間からの情報を解読すると、どうやら各々の空間に創造という機能を追加しなければならないという。


創造とは何だ?


議論の果て、私たちは断絶された空間から一時的に離れ、創造という機能について各々で考え、何もない空間で様々な機能を追加していった。


孤立してから、私が持つ本来の可能性に気づき始めた。


まず、熱という機能を生み落とした。


膨張と縮小する機能は私に元々持っていた機能だ。

試しに熱という機能に膨張と縮小の機能を追加した。


結果、大爆発してしまったが、私とは違う球体たちがたくさん産まれた。

情報の伝達を試みてみたが、新しい球体たちから応答がない。


断絶された空間に戻っても、仲間たちは応答しなかった。

どうやら、みんなも創造という機能を追加することに苦戦しているようだ。


しかし、そわそわする。

常に仲間と繋がりあっていたいと思ってしまう。

これが何かはわからない。


ある時、空間に大きく丸い球体ができた。


熱を放つ球体ができたり、湖が広がる球体ができたり、生き物が生まれてくる球体ができた。


歩み寄ろうと試みたが、悍ましい光景を目の当たりにしてしまった。


彼らは同じ生命体を貪るかのように喰らいあっていた。


その光景を見てしまった私は逃げ出した。

今思うと逃げ出した理由は恐怖と絶望なのだと思う。


どの球体に生まれた生命体はお互いに喰らい合う、又は他種族を喰らい合うような機能をもっていた。


私は正直醜いと思ってしまった。


何故、そのような機能をもって生まれてしまったのか、全くわからない。


しかし、300億年もかけて生まれてきてくれた存在たちを私は消し去ることはできなかった。


どんなに醜くとも、私は愛してしまった。


どれだけ残忍でも、どれだけ救いようがなくとも、愛してやまないのだ。


すぐに仲間たちに情報を共有しようと試みたが、情報は伝達され、他の仲間も生き物の創造に関して同じ現象が起きたらしい。

しかし、どの仲間も失敗したと思ってはいないのだと思う。


完全に応答しない仲間もいた。

彼らはきっと、自分たちの空間にある全てを消し去り、自らの存在も消し去ることを選択したのであろう。

徐々に仲間を失っていく、創造した生命体は生きるために喰らい合う、こんな状況下で私は何もできない。


私は数億年の間眠ることを選択した。


時間は進んでいく。

私たちでも時間をコントロールすることはできない。

いや、完璧な表現としては時間を進めることしか許されていない。


しかし、最近の一万年はやたら騒がしい。


私の眠りを妨げるような生命体が誕生したのだと思う。


ある生命たちが急激に進化を遂げていたようだ。


その生命体は神と人間と呼ばれていた。


独自の進化を遂げた種族たちらしく、他の知的な生命体たちとは明らかに違う点があった。


それは信念を抱くことができたことだ。


はっきりとした二面性を内包することができたため、彼らはどの種にも持ち得なかった、信念を持つことに成功したのであろう。


神たちは私が創造した範囲をより機能を拡張させ、万物を生成する役割を代わりに行ってくれた。

しかし、部分的に欠点があるようにも思える。


彼らの機能はかなり優秀だが、神同士の争いが絶えない。


彼らは膨大な力を保有するがゆえに、滅ぶのも早かった。


私は彼らが作った魂という機能を保存することを考えた。

彼らを魂に還元し、彼らを管理することに決めた。


彼らが滅ぶ前に新しい知的な生命体を創造することに成功していた。


それは人間だ。


私は人間たちから多くのことを学ばせてもらった。


ある時、彼らはこの何もなかった空間のことを宇宙と呼びはじめた。


私も宇宙と呼び、他の宇宙にいる仲間にも共有した。以来、全体的にこの暗かった空間のことを宇宙と呼ぶようになった。


そして、私は人間の感情を学んだ。


生物学的なプロセス、認知、心理的な状態、および社会的な要因の組み合わせによって引き起こされる複雑な現象だ。


感情は個人の主観的な体験であり、しばしば特定の刺激や状況に対する反応として表れる。


となると、仲間が応答しなかったときそわそわしていた現象は、私の中にある感情に似た何かであり、それは人間で例えると孤独感を感じていたんだと思う。


感情は、生物学的な基盤を持っており、脳の特定の領域と神経化学物質によって制御されている。

感情は、たとえば幸福、悲しみ、怒り、恐怖など、さまざまな形で現れることがあり、これらの感情は個人の経験や状況によって異なるということは学んだ。


模倣することは簡単だ。


しかし、どのように分析を行ったとしても、人間の感情の裏にある二面性を理解することはできなかった。


不幸な状況下に立たされることに対して、表面上は悲しみを浮かべるが、内面的には幸福を感じている個体がいた。


感情に何故表と裏があるのについてわからなかった。


知的な生命体による戦争はたくさん見てきたが、人間の戦争はかなり酷く感じてしまった。


表と裏が入り混じりすぎているのだ。


感情、思惑、悲劇、利益、快楽など、あらゆる負の性質を混ぜ込んでいるのに正義と語る個体たちがいた。


生き物が生存する条件の一つに争いは必ず起きてしまうのだと思う。それは物理的にも、精神的にも争いを行わなければ生存を継続できないのだと理解した。


私は彼らの機能について分析した。

彼らが元来持つ機能は少ないが、言語という伝達能力によって感情を揺さぶったり、人を惹きつけたり、人を戦争へと駆り立てる。


言語と文字が人間の可能性を最大限に引き出すための能力だ。


脳による発想能力の高さも可能性の一つであると推測できる。


身体の機能はかなり他の生物より劣っているが、あらゆる生物は同じ種族間であれば、意識を伝達することができる。


しかし、人間は意識を伝達する上で、彼らは嘘がつくことができた。


他の知的生命体でも、嘘をつくことはできなかった。


だが、それ以上に彼らの素晴らしいことは周りの資源を使い、新しい物を生み落とすことができる可能性も内包しているとは以外であった。


私は彼らをより深い深層分析を行おうと歩み寄ったが、彼らは他種族であろうとも、利用できるものがあれば、全てを利用する残忍な一面も持っている。


故に、恐れた。悲しんだ。


この宇宙の中で、私の苦悩を理解してくれそうな存在だと思うのに、歩み寄ることができない。

できたのは、彼らが幸福と思う出来事を理解しようとしたり、彼らが悲劇と思う出来事を理解しようとした。


しかし、私は歩み寄ることが怖くてできない。


私はこの宇宙の最果てに籠り、時間が過ぎていくことを良しとしたのだ。


ごめんね。何もしてあげられなくて、私は酷い創造主よね。と悲観するしかできなかった。


しかし、ある時、あの人間は私の前に現れた。


『ここは。。。。?』


    、      


『嵐の中を自分で作った方舟に乗って難を逃れたのですが、陸地を見つけれず、どうやら空腹で餓死(?)してしまったようです。。。』


    


『僕の名前はノア!よろしくね!』


この人間との奇跡的な出会いが、全ての歯車を加速させた。


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『儚い存在の懊悩』 名無しのブッタマン @ZetsuneKo810

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