不吉な部屋

一花カナウ・ただふみ

13号室

 宿泊先のホテル内の探検はちょっとした趣味である。それにここは曰く付きのホテルだ。


「――なんだ。不吉なことが続く部屋があるって聞いてたけど、このフロアってそもそも11号室までじゃん? 12部屋すらないわけで、噂の13号室ってどこなんだよって話」


 廊下の端まで歩いて確認を終える。このフロアに隠し部屋のような場所はない。

 嘘をつかれたと思って笑えば、連れが膨れて俺の腕を引っ張り歩き出した。


「いいか、このフロアって元々13部屋あったんだよ」


 そう告げて、部屋の案内が書かれたフロアマップを指差した。

 確かにそこには不自然に広い部屋が1つある。柱の位置を考えると、一部屋は潰されたように見えた。


「へえ。不吉なことってアレだろ。死者が続くとかそういう類の」

「死神が出るって話だ」

「ファンタジーだな」


 俺は肩をすくめた。ざっくりと説明をして、連れは歩き出す。俺たちが泊まっているのは不自然に広い11号室である。

 薄暗い廊下を歩きながら、連れは続ける。


「13号室を改装で潰したまではよかったんだけど、今度は12号室で13時間、13号室があった壁を見ていたら、ないはずの扉が現れるって噂が立ってさ」

「なに、そこから死神が出てくるの?」

「これまで死んだ12人がぞろぞろ出てきて、13人目になれって襲ってくるそうだ」

「でも13人目の被害者はいないんだろ?」

「12号室がなくなってしまったからね」


 俺たちは部屋に入る。夜なので室内は暗いのだが、気配を感じる。


「……なあ、ひとつ聞いていいか?」

「なんだい?」

「お前、どうして向こうの壁をずっと録画しているんだ?」


 あの壁の向こうは何もない。正確には潰されたと思われる13号室があるはずだ。


「ふふ、いい質問だ」

「噂は噂だよな?」

「君は怖くないんでしょ、ホラーはほら話だって笑っていたじゃない」

「いやいや、だってだな」


 見えない何かの気配が迫っている。連れが逃げ出さないのが不思議だ。


「じきにわかるよ、13人目くん」


 俺の記憶はここで途切れた。



《終わり》






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不吉な部屋 一花カナウ・ただふみ @tadafumi

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