フェイです

フェイです

　さて、今日は中国の笑い話をひとつ。

　昔、ある男が街の郊外を歩いていたところ、人の骨が野ざらしになっているのを見つけた。

「誰の亡骸か知らないが、埋葬もされずに捨てられているとはかわいそうに……

　よし、俺が墓を作ってやろう」

　彼は穴を掘って骨を埋め、丁重に葬ってやったのだった。

　その夜のことである。

　男の家の門を叩く声がする。

「こんな夜中に、一体誰だろう？」

　問うてみると、答えて曰（いわ）く、

「私はフェイです」

「フェイ？」

「楊貴妃（ヤン・グイ・フェイ）です。

　馬嵬（ばかい）（楊貴妃が処刑された地）で災難に遭った後、私の遺骨は埋葬されずにいたのです。それをあなたが弔ってくれました。

　お礼に、あなたと枕を共にしてご奉仕いたしましょう」

　こうして男は、歓（よろこ）び極まる一夜を過ごすことができたのだった。

　　　＊

　あくる朝。

　男の隣人が、この話を聞いた。

「うらやましい！　俺も楊貴妃と寝てみたい。

　よし、郊外に行って死体を探してみよう」

　隣人は郊外じゅうを探し歩き、やっとのことで遺骸を見つけた。

「よしよし。これを埋めてやればいいんだな」

　隣人は穴を掘って骨を埋めてやった。

　その夜のことである。

　隣人の家の門を叩く者がある。

「よーしよし、来たぞ来たぞ！

　はぁーい、どなたですか？」

　問うてみると、答えて曰（いわ）く、

「フェイです」

「楊貴妃かい？」

「いいや。張飛（ジャン・フェイ）だ」

　隣人はもう、めちゃくちゃに驚いて怯えて震えあがった。

「ええっ！？　ちょ、張将軍がどうして私（わたくし）めなんぞの所へお越しに……？」

「閬中（ろうちゅう）（張飛が殺害された地）で災難にあった後、俺の遺骨は埋葬されずにいたのだ。それを君が弔ってくれた。

　お礼に、俺の尻でご奉仕いたそう！！」

（原作：馮夢竜（ふうむりょう）『笑府』巻八“学様”）