感想26『暗黒竜の渇望』らんた 様

 「魔は自分の姿を映す鏡。自分がそのときなりたい姿を具現化する。彼の姿は牛人じゃった。牛を友としていたから」

 心に残った言葉です。



『暗黒竜の渇望』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330647877241956

 作者 らんた 様



 第二部第二部 暗黒竜の野望

 五章一節 親子での農村生活

    ~ラスト

 までの感想となります。


 感想企画に一番乗りで参加していただいたのが「らんた」さんでした。

 今回の感想で、この企画には一区切りをつけようと思いますので、感慨深いものがあります。


 この『暗黒竜の渇望』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330647877241956

 という作品は作者さんが、15年ちかい歳月をかけて書き上げられた作品という事で、作品自体から作者さんの生き方・知識の引き出し・哲学・思想性などが感じられます。

 また、長い月日をかけていらっしゃるということで、文章の裏側から伝わって来るものの時期的な違いもどことなく感じます。

(つまり、作者さんの人生の中で山や谷があったのではないかと個人的に推察します)


 ■

 大きな物語全体的な感想としては、これは1回目の感想で書いていますが

 ・灼熱にちかい火の熱さを感じる

 ・闇の存在感

 ・人間の身体の感覚として骨と肉の質感を感じる

 やはり上記のものを最後まで通徹して感じさせてくれる作品でした。


 この感覚はおそらく作者さん独自のものと思います。

 他の作品からも、ほのかに感じられます。


 ただ、読中の感覚と 読了後の感覚は別のものであり、私の場合は読了後に薄紫色(スミレ色ぽい)の闇が荒涼と胸のなかに広がっていくような感じが残りました。

 この感じは「重さ」と「重さの無さ(軽いという意味ではない)」を併せ持つもので「本来表現できないものを表現されたもの」として感じているような味わいです。


 今回読みました後半部分は、物語性(ストーリー性)と政治や社会についての描写が、分かりやすく描かれており

 良い意味でスイスイと頭に入ってきました。

(注・スイスイと頭に入って来ても、良くない作品はあります。また、スイスイと頭に入ってこなくても良い作品はあります。 良い=私にとって良いという意味)




 哲学性も非常に高い作品なのですが、私個人としては先ほど述べた感覚(身体性感覚)が第一の感想に上がってきます。

 比率で言いますと 感覚性7:哲学性3 という所でしょうか。

 ただ、上記の感想はあくまで私個人のもので一般的・平均的にどうか?と考えると正直よくわかりません。

 バトルや変身シーンに面白味を感じる読者も多いでしょうし、哲学性に惹かれる読者も多いでしょう。なかには、宗教的な知識欲を刺激される人もいると思います。



 ■商業作品が嫌になった私にとっては『癒し』ともいえる良い作品だった


 ちょうど一年前、私自身の空いた時間が増え、長年の夢だった長編小説の執筆に取り組んでみました。

 第一作は10万字ほどで、どうしても書けないシーンはChat GTP(人工知能)に書いてもらうという反則までしました。(あまりの出来の悪さに非公開)


 で、15万字の第二作目を書き終えてカクヨムに投稿しましたが、……まあ爆死。

 ここから感想企画で様々な方の作品に触れ、カクヨム創作論などで熱心に勉強。


 そこから、私としても、かなり自身の描きたいものを描きたいレベルで書けた第三作目ですが……まさかの二作目より読んでもらえず。


 私は突きつけられる。


 ――― この世界にはニーズというものがあり、世に出回っている商業作品・Web上人気作品はニーズに合わせて書いてある


 私は、作家さんというものは

【自分が書きたくて書きたくて、どうしても書きたくて、自身の魂をぶち込めるものを書いている】

 と思っていましたが、違っていました。


 売れるものを

 売れるとわかっているものを

 時代のニーズにそくしたものを

 計算の上で

 自分の味付けで書いているだけだと……。


 感想企画で、文章の裏側にあるものを感じる能力が磨かれたというのもあり、以前はのめり込んで読んでいた小説も、作者の意図が透けて感じられるようになり

(つまり、このシーンは計算づくで書いたとか、本当は入れたくなかったシーンだが編集者との打ち合わせで入れたんだろう、とかが何となく感じられるようになった)

 完全に書店に売ってある書籍、つまり商業作品に白けきってしまいました。


 私は創作者の「計算の上手さ」を読みたいわけではない。

 文章の裏にある、創作者自身を読み解きたいのです。


 そのような状況で読ませていただいた『暗黒竜の渇望』は

 計算づくで書かれた文章ではなく、作者さんの魂をぶつけたものであり

 心の深い部分で ―――人間が何かを表現するっていいな――― と思わせていただきました。





 ■さまざまな読み方


 神話として読むことも出来ますし、エンターテイメントとして読むことも出来ます。


 エンタメとして見ると、個人的にロスタフ王子が出来心で女性と遊ぶあたりは本当に異様に面白かったですね。




 また、思想や哲学を説いた部分や 社会のありようを説いた部分もあり、若い人向けの知識啓蒙の教科書としても有用な作品に思います。


 人間は、目の前にある様々な事象について「意味を見つける」生き物です。

 しかし、ヒントが無い・もしくはヒントが少なすぎると「意味を与える」ことができません。

 ひどい場合は目の前の事象について認識することすら出来ません。


『暗黒竜の渇望』は作者さんの宗教的知識・個人の思想哲学が、随所にちりばめられており、読者に目の前の物事への認識の着眼点をあたえてくれます。


 ・個人とは

 ・家族~社会とは

 ・存在とは


 そして、それらの問題点にどう向き合うか?を考えさせられます。

 また、前述しましたように自身が気付くことすらなかった問題を「問題として気づかせてくれる」効用があるように感じます。


 ■


 物語としての感想は、この『暗黒竜の渇望』自体が神話・伝承をモチーフにしたもの(違っていたらすみません)で、大きな感想としては上手くまとめきれません。

 様々な登場人物たちの葛藤が個人的に印象に残っています。


 それぞれの登場人物たちは修羅の道を歩いており、今までに見たことのないタイプの方たちなので新鮮な感情移入が出来ました。

 ただ作者さんが書いていらっしゃいますが「日本人にとって馴染みの薄いヒーロー像」なので、頭の硬い方には理解が難しいかもしれません。


 その点、今回の読書部分ではないのですが、マーサ(→ビジャップ)についてはかなり深い部分で感情を揺さぶられたキャラクターでした。


 主人公ロスタフ王子については事前に情報を知っていたのが少々残念でしたが、意外性のある流れでエンタメとしても面白いものがありました。



 ■

 感想企画を書いて来て、物語(の指定範囲)を読み終えて思う事はじつに様々です。


 ここカクヨムという場は商業作品の集まりではないので、より生き生きとした創作者さん達の息吹を感じることが出来ました。



 批評・感想を書く方も沢山いらっしゃいますが、ほとんどの人が商業作品だったどうか?という視点での批評・感想が多いですね。

 まあ、仕方のないことかもしれませんが、ここカクヨムにある作品は裏側にある創作者の存在が強く伝わって来るものが多いです。

 そういった点を読み取り、様々なものを汲み取った上で批評・感想の作業をして欲しいものです。


 そうしますと、作者さんが『暗黒竜の渇望』に込めたものは何だったのでしょうか?


 あとがきから引用しますと

 >この作品は自分の変身願望と神話趣味を融合させた作品です。そして自分は社会的に死んでいるのではないかという問いに対し、「否!」と言う意味も込めて闇世で咆哮する社会的意味や意義も込められている。

 >マイナーなペルシャ神話を普及させたいという思いも込めて書き上げた作品です。


 とのこと。

 また


 >みんなも考えてほしい。正道を歩みながら悪の道に進んでしまった者は果たして救われるのかどうかという事を。


 とのこと。



 では、私が余韻を味わいながらも『暗黒竜の渇望』から、作者さんの声として聴いたものはなんだったのか?

 受け取ったものはなんだったのか?


 そこに見えてくるのは、やはり薄紫色の闇であり

 作者さんの言葉として聞こえてくるのは『友』という言葉です。


『暗黒竜の渇望』の登場人物たちは(敵味方ともに)

 常に大きな何かに挑みながらも、そこには友という言葉が出ていた、またはそういうもであったように思います。



 私自身が、読書中という一瞬一時期ですが作者さんの友であれたなら、幸いな事に思います。



 私自身2024年3月現在、このWeb小説や商業出版作品に白け切っておりますが

 ペン(キーボード)ひとつで世界を創造できる小説づくりには、いまだ未練が残っております。

 人生の中で再び時間があれば、あと何作品か、PVなど関係なしに創作したいなと

 この作品を読んで強く思いました。


 では、また。

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