感想番外編『しろがねの葉』千早茜さん

 ■こんにちは、天音朝陽です。


 今回は番外編で、直木賞受賞作品『しろがねの葉』の感想を書きます。

 

 まずはじめに謝っておきますが、私はこの作者・千早茜さんを好きではありません。嫌なことを書くかもしれませんので、心酔していらっしゃる方は慎重にお読みください。


 好きではありません、と明言しております。

 しかし、こうやって時間を用いて感想を書くくらいですから『作品』の出来はものすごく高く評価しております。

 個人の読者として感想も、めちゃくちゃに面白い。

 そもそも2023年の一番最後に読むくらいですから、そうとうな関心を持っていると思ってください。


 ■つまらない自分語りにお付き合いください。


 私が千早茜さんに興味を持ったのは、町内の廃品回収に「オール読物」という本が出されており、それが直木賞受賞作についての号だったという事でした。

 その本の中で、私が若いころから読んでいた北方謙三さんと千早茜さんの対談がなされており、その中でいろいろと北方さんが作品の感想を述べられていました。


 結局、その「オール読物」はいただいて家でゆっくり見ました。

 千早茜さんに興味をもった私は、千早茜さんのデビュー作「魚神」をブックオフで買い読んでみました。

 美しくも幻想的な描写、はかなく揺れ動く心理描写の巧みさとエロスに「すごいな」と正直に感心しました。

 そして、自分もこの人のような物語を描いてみたいとも思いました。


 私の原点という訳ではないですが、彼女の文体は間違いなく自分の骨格のひとつです。

 今も、今後も様々な描写・描画については、高い意欲をもって参考にしていくつもりです。



 ■ふたつの視点で作品を見る


 私自身、カクヨムデビュー作の下手さ加減から、もっと勉強せねばという危機感をいだきました。 

 そこから、他の作者さんの作品を読み感想を書くという、この連載を開始しました。


 その結果、作品を読む視点に

 ・読者として純粋に作品・物語を読む

 ・創作者として、作品を読む。その副次的な視点として、なぜ作者はこの作品を描いたのか?その背景みたいなものが透けて見えるようになりました。

 (透けて見えると言いましても、あくまで私の主観です。しかし作者さんから「なんでそれが分かるんですか?」という反応をよくいただきますので、あながちズレた私の思い込みではないように感じます)

 この上記ふたつの視点が生まれました。


 このふたつの視点はアナログ的に分量の切り替えが効き、カクヨム作品を読む際ほとんどの場合は 読者視点7:創作者視点3 で読んでおります。


 引き込まれる作品というのは、読み進めるにつれ読者視点の割合が増えてゆき、最終的に読者視点10:創作者視点0になってしまいます。



 ■『しろがねの葉』の第一感想


 やはり、この作者は好きになれない(苦笑)というものです。

 これは文字通りではなく、羨望とか嫉妬とか、そういうものが混ざった「素直じゃない」私のふくざつな意見も含まれていると受け取ってください。



 今日まで、コツコツと三分の一ほどの量を読んで、残りを一気に読了しました。

 読後の感覚としては『心の中に巨大な虚の闇』が出来るというものです。


  ―――― 暗く、くらく、外から感じると重みがあるものの、その実は重さが無い。軽いとは言わず、重さがない、虚としか言いようがない。


 そして、この『巨大な虚の闇』を私自身の中に感じると、非常に不味い。これはおそらく不味い以上に適切な表現があると思いますが、私の表現力ではここが限界になります。


 正直に言うと後味が悪い。

(注>あくまで、個人の感想です。違う感想・感覚を持つ人も沢山います)

 本を購入して、時間を使ってまで読書をして、この感覚を得る。得させられる。

 

 私はこういうのが嫌いです。


 このような感覚は人生の中で、じゅうぶん間に合っていますから。

 ただ、このような読後感覚は需要が確実にあるように思います。

 なので、当然といえば当然ですが、千早茜さんはプロの商業作家としては、作品の方向性として正しい選択をされていると思います。

 

「嫌いなら、読むなよ。そして、わざわざ投稿するなよ」

 と、貴方は思うかもしれません。


 はい、矛盾するかもしれないんですが、それでも作中に『上手いな、参考になるな』という表現が『あまりに多い』んです。

 そこは、ここを訪れる創作のヒントが欲しい人には知って欲しい。


 さらに、人の心の機微をとらえたシーンの抽出、文章としての描写がたくみ。そこは、読みたい。

 乾いた水をもとめるように、私は読みたい気持ちにさせられる。


 さすがは、読解力がたかく繊細なレベルの高い玄人読者相手ではなく、の商業エンターテイメント作品に与えられる直木賞の受賞作は伊達じゃないなと思った次第です。



 ■物語の感想


 物語の感想についても、ここも

 ・読者視点

 ・創作者視点

 で、かっちりと分かれます。

 ここがかっちりと分かれるという事は、それだけに『作品』の創作に対しての背後の風景があるという事です。

 ですので『作品』としての完成度は、【異常】という言葉を4乗しないといけないくらいに高いものだと思います。 


 そして、それだけに作者・千早茜さんが創作というものに一般人の感覚では想像も及ばない【執念】の「熱量(熱さ)」と「物量(エネルギー量)」と「勢い(ベクトル)」をもっていらっしゃるのだと、思われます。

 

 □ 

 読者視点での物語の感想(注 読後感ではありません)は『混沌とした美しさがあり面白い』というものです。ただ、混沌といってもその裏は緻密に整合性がとってあり、その結果として受け取るものが「混沌」ですので単純なものではありません。


 物語は、時代物です。

 ウメというひとりの女性が親からはぐれる、そこから銀堀山師の男に拾われ、自分も銀堀をしたいという思いを抱くがそれはかなわず、紆余曲折(というまでもないが)の人生を終える。

 というお話ですね。


 正直言って読んでいると面白い。

 単純に上記の話の流れで何が面白いのか、理解に苦しみますが、やはり面白い。


 最近はWeb作品に慣れ切って、文字がぎっしり詰まった紙の本の文章情報量に頭脳がついていけなくなりそうになりつつも、やはり面白い。

 この何故面白いのか?は2024年にじっくり考察しないといけませんね。


 面白かった個所として。

 ほとんどの読者が「良いな」と思う物語上のシーンがあるのですが、これが実に見事でした。

 『父親でも、恋人でも、夫でもない、主人公ウメが想いを抱いた男の、自分への想いを後年になって知る』シーンがあります。

 ここは、手放しに良かった。

 ぜひ読んで欲しい。


 □

 創作者視点の物語の感想としては、これも実に上手い。

 上手い。

 すぐれた設計者が図面を書くように、プログラマーが論理的なコードを書くように……、実に上手い。



 ただこれは、商業作品として計算が上手いという話です。

 千早さんご自身が『心の奥底から書きたくて書きたくて仕方なく、それを出すしかなかった作品』が上手いのでなく『売れる作品として、一般的な読者を意識して書いた商業作品』として上手いという話です。


 もちろん彼女自身が、そういう商業作家という立ち位置にいるので、それは仕方のないことだと思います。

 これは、(作品レベルはともかく)私自身が趣味で自分の書きたい作品を書いている立ち位置にいますので、恐ろしい程に『読者に寄せる匂い』として感じます。


 かなう事のない願いだと思いますが、私は彼女が書いた『読者を意識しない、心の奥底から書きたくて書きたくて仕方なく、それを出すしかなかった作品』を読んでみたいものです。

 そうとうにえげつない地獄のような作品になるように思うのですが、意外とそうでないのかもしれません。


 □

 創作者視点の感想2


 創作者としての作品感想としては、やっぱりイライラするんです(苦笑)。


 物語として、現実はそんなに甘くねえよ!設定に無理があるだろ!


 創作者視点で見て、そう思うような内容が多いんです。

 多すぎです。

 しかし、千早茜さんの力量(文章力)で一般的な読者には【まったく、それを感じさせない】んです(興奮)。

 私自身も読者モードで読めば【まったくそれを感じない】。


 だから読者としてはまったく問題ない(苦笑)。


 例えば、この作品は、主人公の女性ウメが自分の力で運命を切り開こうともがくというテーマが見え隠れするんですが……

 結局のところ、主人公ウメはイケメン(多分)の高スペックの社会的な地位のある男に都合よく好かれて側に置いてもらっているにすぎないんです。それを人生のうちで2度も。3度目に好かれた男は、年下で、水浅葱みずあさぎという水色の眼をもつ超絶イケメンのようです(うらやましいぞ!)。


 完全に逆ハーレムというか、女性読者の潜在的願望を鷲掴みですぞ。


 だから全然『自分の力での運命の切り拓き』ではないんです。主人公、本人は頑張っているようですが。

 完全に、ご都合主義です。


 主人公ウメも、暗闇で夜目が効くとか、身体能力や戦闘能力や意志力がチート並みに強い。さらには物語の中では、一時期ですが身体的ハイスペックのクールな凄腕のボディガードに守られることも。

 冷静に考えてこんな一般人田舎娘はいない。

 さらには主人公ウメには、自分が強いというその自覚がない。

 すげーぞ、ウメ。


 これ何かに似ているぞ!

 ふつうに「なろう系」のご都合主義の俺TUEEEの逆ハーレムなのです(苦笑)。


 で・す・が!

 繰り返します。

 作者・千早茜さんの力量(文章表現力)で一般的な読者には【まったく、それを感じさせない】んですね。


 繰り返します。

 一般的な読者には【まったく、それを感じさせない】んです。


 正直に言って尊敬します、ものすごいを×100したくらいに凄い!と思います。


 これがプロってもんだなと、恐れ入った次第です。



 ■

 最後に。


 ちょっと、とりとめなくなりましたが『しろがねの葉』ですが流石に凄い。


 作者・千早茜さんの強烈なまでに自己を持ちつつ( ここまでに書いていませんが、千早茜さんは強烈なまでに自己をもった方だと思います。身内にいたら面倒なタイプ ) 、それでいて、商業作品として整合性をもって一般的な読者に合わせている。


 最後に「合わせている」と表現しています。私はここを「寄り添っている」とは書かないんです。そう感じさせるものが無いんです。

 これは私の主観的な感想ですので、同意は求めません。


 これが私が、冒頭三行目に書いたことの理由です。


 このような作者さんを、仰ぎ見る師として求めている創作者さんもいらっしゃると思いますので、良いとか悪いとかではなく、これも創作者の在り方のひとつと考えています。


 ただ間違いなく、作品としての完成度は半端ないし、そこに注がれたエネルギーは高雅なものであったと思います。


 2023年を締めるには、間違いなくこれしかない作品でした。



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