第5話 そして成人へ……
ゴンゾウの後継者争いが始まってから90年が経過したわ。
一万を超える子エルフ達は遂に二人になった。
一人はこの私、メガミ。
もう一人は途中まではトールキン35号と呼ばれていたハエナ。
ハエナを倒せば、私がゴンゾウの後継者として成人エルフへの道が約束されることになる。
とはいえ、ハエナはある意味ではモリオを超える強敵だわ。隠れてライバルを待ち伏せて、近づいた途端に葉で包み込んでそのまま消化して自分のエネルギーにしてしまう。
戦い方がえげつないうえに私と同じで、中々姿を現さないわ。
長期戦になりそうね……って、もう15年経っているけれども。
こうなるとお互い、相手の残した僅かな痕跡を追跡するしかなくなっていく。
先に相手を見つけることができれば、圧倒的に有利になるわ。行動の癖や立ち寄る場所を押さえたいけれども、ゴローの時と比べて成人エルフ達は当然中立。お互いについての情報は全て遮断されているわね。
移動は地中の方が安全だけど、地中ばかりにいると生きていけないし、生きていることに疑問を感じてきてしまうわ。
とりあえず沼地あたりで小休止しましょう。
森の中にある泉のような沼は、生き物と小さな草木の楽園とも言える場所だわ。
うん?
今、何か踏んだわね。
足下に小さな虫がいるわ。ただ、踏んだ時、微かな精霊の力を感じたような……。
もしかして、この虫に精霊を憑依させていたのかしら?
そうだとすると、厄介ね。
この場所を離れた方が良さそうだわ。
茂みの方に向かって歩き出したその時。
「アッ!」
突然、足に草が絡まったかと思うと、大きく巨大な葉が飲み込むように近づいて、一気に飲み込んできた……!
……
……
「アーッハッハッハ! 遂に捕まえたわよ! メガミちゃん! 私の精霊草は全てのエルフを葉で包み込んで、そのまま消化してしまうの! メガミちゃんの体液は一滴残らず私のものになるの! だから、いつまでも一緒よ、メガミちゃん。(*´Д`)ハァハァ」
……
……
「このハエナが、最初は名前ももらえなかった陰キャのハエナが成人エルフになるのよ! 陰のあるヒーローを装っていたゴロー、ざまあみろ! ゴンゾウの再来なんて期待されていたモリオ、ざまあみろ! 大層な名前をもらったメガミちゃんもざまあみろ! 勝ち残ったのはこのハエナよ!」
……
……
「私こそが最高のエル……フ……、あれ……? おか……しいな…………急に……息が…………」
……
……ふう。
危ないところだったわ。
沼地で拾い上げたサメハダイモリの毒を塗りたくっていなければ、私の方が死んでいたわね。
よくよく考えれば、ハエナは必ず捕まえて消化にかかるのだから、体表に猛毒を塗っておけば負けはないと気づいたのは我ながらナイスアイデアだったわ。
しかし、ハエナはどこにいるのかしら?
目に見える場所にはいないわ。根っこを伸ばしていたようだから、少し離れたところにいるのかしら。
高らかな叫び声は聞こえたから、近くにはいるはずだけど……?
見つけないと、最終勝者確定にならないからねぇ。早く見つけないと。
と思ったら、成人エルフが見つけてくれたみたい。
『あっちでハエナが死んでいるぞー!』
『ということは、勝者はメガミだ!』
「やったー!」
こうして、私は成人エルフとなり、以降数千年森を守ったわ。
私達の世代で、森は人間達に見つかって危機を迎えかけたけど、ハエナ直伝の食虫植物作戦で近づいた人間をことごとく栄養に変えたおかげで、森は更に繁栄することになったわ。
ゴローには悪いけれど、私はやはりパタゴニア派だから、人間達は受け入れないことにしたの。
そして、スナオとモリオの志も忘れなかったわ。
彼らの犠牲の下に、エルフ達は細々と生き続けているのよ。
『いや、最後だけ綺麗に締めくくっているけど、ゴロー以外全員卑怯な手で葬っていなかったか?』
「アマゾンにある国にこういう逸話があるらしいわ。敗者は百の言い訳を探す。勝者はただ祝う。負けた言い訳に付き合っていればキリがないわね」
『……全く。まあ良い。きちんと成人エルフとして生を全うしたから、成功ということでいいだろう。だが、元神族とは思えないあまりに卑劣な方法で勝ち上がったことで大主神様がお怒りになられた。以降は厳しい戦いが待っているだろう』
「えぇぇっ!? そんなのあんまりだわ!」
これ以上難易度をあげる人生なんて、酷すぎるわよ!
エルフ(の子供)は大変です 川野遥 @kawanohate
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