注意:これは現在(2026/8/27)時点よりも大分先、そのシーズンが終わったオフシーズンの話です。
マイルス・ガーネット。
NFL・ロサンゼルス・シープス所属のディフェンス・エンド。
身長193センチ、体重123キロ。
破格の身体能力を持つ者が集うリーグ・NFLで並みいる相手をぶちのめしつつ毎年トップの成績を出し続ける文字通りのビーストだ。
ジョージ・ウェリントン・ショーンバーク=アルベマール。
英国侯爵でありながら、オックスフォード・レンジャーズのセンターバックを務める男。
身長200センチ、体重127キロ。
フィジカルと高さだけならプレミアリーグまで含めても最高峰と言われるフィジカルモンスターと言える。サッカー代表よりもラグビー代表の方が遥かに親近感のあるこの男の無慈悲なまでの体力。
レンジャーズの連年におけるFAカップでの躍進にこの男の強さが貢献しているのは論を待たないところだ。
「……この2人と、おまえがやんの?」
陽人が目を丸くして尋ねる。
その目は完全に死んでいると言っていい。「嘘だろ?」というより「アホだろ?」というようなものだ。
立神翔馬。
プファルツ・ミュンヘンへの移籍が決まった右サイドバック、ウイング。
身長173センチ、体重82キロ。
キック力、スピードなど一般的な選手としては日本人離れしており、ヨーロッパでも屈指の能力を持つと評されている。
とはいえ、体格を見ても分かるように2人の巨人に挑むとなればアホな人間としか言いようがない。
「いやぁ、車くれるって言うからさぁ」
立神は頭をかきながら言う。
元々はショーンバークも株主であるドイツの自動車メーカーが、新車の宣伝でパワフルさやスピードを示すためにアスリートを使った広告を出そうとしたらしい。
そこでショーンバークが「一番ヤバそうなヤツにオファーして、ついでに私も参加しよう」とか言い出したのがきっかけだ。
さすがにテレビ広告にショーンバークを出すのはアレなので、却下されたが、別にトレーニング動画などを作って出そうということになった。
そうなると、もう1人か2人くらいは入れたい。
ガーネットは日本文化が大好きで、リストバンドに「シンゴジラ」と書いたり、「鬼滅の刀」のグッズなどを持っていたりすることでも知られる。
ということで、ちょうどドイツにいて日本を代表するフィジカルの持ち主である立神翔馬にも声がかかったらしい。
彼の夏のスケジュールは6月に一度日本に戻って、末にドイツに戻る。
その後、プファルツのトレーニングキャンプに参加するようだが、何と6月下旬にガーネット達も来日して日本で撮影し、更にドイツでも撮影するらしい。
この6月下旬の来日では、相撲部屋なども訪ねて、そこでも色々トレーニングをするらしい。
「ケガしても知らんぞ……」
ショーンバークのトレーニングもあのデカさだけにウェイト量は相当なものだと知っている。
レッグプレスなどは300キロつけたうえにマルク・フサールとガオフェン・リーが乗っても平気なくらいだ。陽人には意味が分からないレベルである。
ガーネットは人類最強のパワーがあるとも言われているのだから、その上を行くのは確実だろう。
せっかくビッグクラブに移籍しておきながら、シーズン前のプロモビデオで負傷したとなれば監督の心証は最悪だろうし、復帰しても使われないなんてことが起きかねない。
しかし、立神が言うにはチームは反対していないらしい。
「チームは許可しているというか、むしろ積極的に参加してくれっていうか……」
NFLは商業規模で言うなら世界最大のリーグだ。
となると、コラボをするにしてもプレミアリーグのチームやスペインの二強であることが多い。
プファルツ・ミュンヘンというドイツのチームをPRするに際して、より良いと考えたらしい。
「あとは日本の広告でも使われるみたいだし」
パワーを示すところでは当然ガーネットだが、短距離の加速では立神が走るシーンも使われるらしい。
確かにNFLの選手は短距離のダッシュは凄いが筋肉が大きすぎて、長くなるにつれて遅くなるようだ。
立神以外の各国の選手も起用しているようで、国ごとに違う広告を用意しているらしい。
陽人が笑ったのはアメリカ版だ。
ガーネットが相手選手を突き飛ばして吹っ飛ばして突き進むように、新車が目の前にある壁をぶち破って進むのだが、世界のどこに壁に向かって新車を走らせるドライバーがいるのだろうか。
「こんなんで本当に壁にぶつかって死傷事故が起きたら、裁判を起こせるんじゃないか?」
日本で放映したら、どういう反応を示すのか見てみたいものだ。
それはそれとして、日本でもトレーニングをするのなら、ガーネットを満足させるようなことをしても良いのかもしれないし、立神もそう思っているようだ。
「ガーネットは日本文化大好きだから、優貴か徹平も連れてきたらいいんじゃないか?」
安易に勧めてくる。
陽人は反対した。
「あの2人は日本文化ではなく端的にアニメかマンガだが……」
鬼滅の刀のグッズを持っているくらいだから、アニメが好きなのだろうが、だからといって参加させて良いわけではない。
陽人はそう言うが、立神はそう思わないようだ。
「世界のトップフィジカルの持ち主の練習に付き合うのは悪いことではないんじゃないか?」
「それはそうかもしれんが、優貴と徹平はやめておいた方がいいぞ。巨人と同じ空間に普通の人間を入れても良いことは何も起きないからな」
「鬼教官にしては随分弱気だな」
立神の言葉に陽人はムッとした。
「いや、俺のメニューに従っても重傷を負うとか、命を危険に晒すとかはないだろ」
自分は人間を相手にしている。
神や巨人は別物だ。
陽人はそう反論した。