翌日、佐久間サラは朝、歯を磨きながら壁にかけたカレンダーを見て、今日以降の予定表を確認していた。
すると、突然。
『昨日はお疲れ様』
突然、無人の部屋に声が響き渡り、佐久間は思わず歯ブラシを落とす。
「な、な、何?」
『天見優依のマネージャーの新居千瑛よ。おはよう』
「ど、ど、どこにいるんですか?」
声が聞こえてくる方向は、自分の携帯電話である。
まさかと思って、携帯を手に取る。ホーム画面を開いてみるが、特に異常は見当たらない。
それとは無関係に新居の声は響いている。
『佐久間さんに別の仕事の提案に来たの。後でメールを送っておくから見ておいてね』
一方的に言いたいことを言っていくと、それ以降は何も聞こえなくなった。
「な、何だったの……?」
不気味に感じつつも、ともかく歯磨きと洗面を終えて、佐久間は近くの通信端末を手にしてメールボックスを開いてみた。
丸山からメールが届いていた。
ただし、タイトルは『終末世界へのお誘い』という不穏当なもので、文面も丸山のものとは違う。
本文には『さっきの電話の件よ。よろしくね』とだけあって、PDFファイルがついていた。
「怪しいなぁ……」
社長のメールアドレスが乗っ取られたのだろうか。
不気味ではあるが、社長のメールを開かないわけにもいかない。やむを得ず確認してみると、企画書のようなものである。
「何々、舞台は2032年の地球。様々な問題が更に大きくなり、世界の終焉を迎えようとしていた。ふーん、世紀末系の話なのね」
『そうなのよ』
「どわぁぁぁ!?」
またも室内から新居の声が響いてきて、佐久間は思わずひっくり返りそうになりながら声をあげた。
『中々いいリアクションね。優依ちゃんの時より素晴らしいわ』
「い、一体どこにいるんですか!?」
周囲を見渡してもどこにもいない。
『この話は当初ラブコメジャンルで始めたのだけど、最初の数話でギャグ要素が強すぎてラブコメ展開が不可能であることに作者が気付いたわ。その後は現代ファンタジーに転向したけれど、読まれる読まれない以前に作者が制御しきれなくて毎回コースアウトしてクラッシュしていたのよ。遂に作者が逆ギレして完全に真逆の世界、終末世界ディストピア系の話として生まれ変わることになったわ』
「はぁ……」
『偶にテクニカル・エリアの登場人物をもっと個性的にしてほしいというコメントをもらって、もっともではあるのだけれども、基本的にこの作者がキャラを強調すると話が進まなくなるのよ。』
「そんなメタな話をされましても……」
佐久間は出演者一覧を見て、目を見張る。
「というか、コントロールできずにコースアウトとか言っているのに、前より設定人物増えていません? 倍近くいますよ」
『一流の演出家は人を減らすけれど、二流以下は人を増やすのよ』
「……なるほど」
『残念ながら佐久間さんは空が飛べるわけでもなければ、魔法も使えないし、超常存在でもない、普通の人間ではあるのだけれど、それでも必要とされる役は一杯残っているわ』
「……えーっと、超常能力がリアルに求められるドラマなんですか?」
『あった方がいいわね』
「ないです。すみません」
『大丈夫よ。少なくとも途中で死ぬ役とかは、超常能力がなくても大丈夫だから』
「ここで、最初に私が想定した殺される役の話に戻るんですね……」
『旅番組は気が向いたら始まるかもしれないわ。どこに行くかは分からないけれど……』
というような話が1月8日の0時18分から始まるようです(爆)